中国の産学研「合作」と大学企業(校弁企業)

執筆者 角南 篤  (政策研究大学院大学助教授)
発行日/NO. 2004年3月  04-J-026
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概要

中国の産学連携の状況については、ここ数年、日本国内でもその急速な発展が伝えられ始めた。本研究は、目まぐるしく進化する中国の産学連携の状況を、大学が自ら設立した企業(校弁企業)を中心に分析し、今後の発展の方向性を展望したものである。大学による校弁企業の設立は、世界的にみても珍しい中国特有の産学「合作」であるといえる。その背景には、(1)大学の資金不足、(2)大学による市場への参入機会の発生、(3)そして「産」のR&D不在が挙げられる。また、(4)近年の大学が保有する技術に対する市場価値の増加?ソフトやバイオなども理由の一つであると考えられよう。

そのような校弁企業が中国のイノベーション・システムにもたらした影響の評価としては、プラス面として、(1)校弁企業から得られる資金が政府からの交付金不足を補うことになった点、(2)学から産への技術移転をスムーズにした点、また、(3)中国のハイテク産業を発展させる上で必要な存在であった点などが指摘できる。また、一方で、マイナス面としては、(1)教育や研究といった大学本来の役割を犠牲にする、(2)大学の研究の内容や方向性、ひいては研究環境に悪影響を与える、(3)基礎研究を弱体化させ、社会全体のコストが増す、(4)そして、大学に不必要な経営リスクを負荷させ、校弁企業の経営が悪化すれば大学に対する信頼性が失われるなどが挙げられる。

今後の方向性としては、政府は大学に対して一層の規制緩和を行うことにより、各大学がそれぞれの比較優位に基づいた市場ニッチを追求するようになるであろう。一方で、大学は教育を通した人材育成の社会的重要性を再確認し、大学運営や校弁企業に対する管理体制をさらに充実することが求められる。また、北京や上海といった沿海部や大都市部の大学だけではなく、地方の大学のレベルアップが重要になってくる。重点大学に指定されている大学が国際的に認知されるような教育、研究組織になるためにも、大学や校弁企業など産学連携の運営管理体制をさらに整備することが求められる。