財政危機のシミュレーション

執筆者 戒能一成  (研究員)
発行日/NO. 2004年3月  04-J-018
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概要

1990年代における日本国政府の財政運営に関する挙動が今後とも継続された場合、将来どのような問題が発生するのか、また持続可能な財政運営を実現するためにはどのような政策変更が必要であるのかを知るため、1990年代の政府の歳入・歳出と公債残高・積立金の実績値を国・都道府県・市町村・公的年金制度の4主体別に整理しその構造を分析した計量モデルを構築し、実質経済成長率などのマクロ経済に関する前提値を与えて数値シミュレーションを行った。

この結果、1990年代の財政運営に関する挙動が現状のまま継続された場合、実質経済成長率が高い状態でも国の基礎収支は回復せず、国債累積残高の再帰的増加が深刻なクラウディング・アウト問題を引起こしてしまうなど「景気回復による自然な財政再建」は起こり得ないこと、さらに実質経済成長率が低下するにつれ国・都道府県の基礎収支の悪化は一層深刻化するとともに公的年金制度の制度運営も行詰まってしまうことが判明した。

持続可能な財政運営を確実に実現していくためには、国は消費税増税などの歳入回復措置をとり公共投資による景気対策を断念すること、都道府県・市町村は財源移譲と引替えに歳出削減措置をとること、公的年金制度は更なる給付抑制と事務合理化、基礎年金の税方式化などの制度改正を行うことが必要であり、国・都道府県・市町村及び公的年金制度は組織・部門を横断した財政再建のための実効ある措置に直ちに着手しなければならないことが示された。