税制改革の政治経済学

執筆者 国枝繁樹  (一橋大学大学院国際企業戦略研究科助教授)
発行日/NO. 2004年3月  04-J-013
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概要

我が国の従来の税制改革に関する最大の問題は、政府が遵守すべき異時点間の予算制約式から必要とされるネット増税を実現することができなかったことにある。それでも、財政当局の存在や自民党内の集権的な税制改正過程は、財源なき所得税減税のような予算制約式の枠外にある財政政策が将来世代に過大な負担を負わせることを阻止してきたが、90年代の政治システムの大きな変化及び景気動向は、そうした歯止めを失わせ、我が国は世界で最も将来世代から搾取を行なっている国に転落した。本稿においては、最近の経済学による政治分析の理論や実証結果を踏まえて、従来の税制改正過程につき分析を行なう。さらに、政府の異時点間の予算制約式を遵守した税制改革により、世代間の著しい不公平が是正されるよう、望ましい税制改正ルール・税制改正過程(機関)につき論じることとする。また、予算制約式外の財政政策を正当化するために用いられてきたVoodoo Economicsについても、なぜ予算制約式外の財政政策の提案が、実際の財政政策に影響を及ぼすのかについても分析を行なう。さらに、現在の「世代間の搾取」とも呼ぶべき著しい世代間の不公平につき、「世代間公平確保基本法」を制定することで、その是正を図ることを提案している。