政治システムと財政パフォーマンス:日本の歴史的経験

執筆者 岡崎哲二  (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2004年3月  04-J-009
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概要

本論文では、戦前日本に焦点を当てて、政治システムと財政パフォーマンスの関係について検討している。戦前の日本は、近代国家成立以後の数十年の期間に、政治システムと財政パフォーマンスの両面について大きな変化を経験した。この経験は、両者の関係を実証的に検討するための貴重なデータを提供する。

大日本帝国憲法は、国務と統帥の分離と、前者における国務大臣の単独補弼制の二つの面で分権的な政治システムを規定していた。この枠組みの中で、日露戦後、政治システムの構成要素であった軍部・官僚・政党が自立化を始め、予算に強い膨張圧力を加えた。しかし、第一次大戦前期には憲法外機関である元老が国家統合と財政規律の維持に寄与した。これに対して、第一次大戦期以降、元老の機能が低下し、分権的な政治システムの下で財政規律を保つことが難しくなった。1920年代に定着した政党内閣制が予算を全般的に膨張させたことは定量的に確認できる。1930年代には軍部の影響力が増大しただけでなく、軍部の内側でも意思決定の断片化が進展した。日露戦後に黒字基調であった財政のプライマリーバランスは1920年代以降、赤字基調に転換した。こうした財政パフォーマンスの変化は、上記のような政治システムの変化を反映したものと考えられる。