「十二年の沈滞」からの脱却:『社会投資ファンド』で民間投資需要を生み出せ

執筆者 西村 清彦  (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2003年2月  03-J-003
ダウンロード/関連リンク

概要

12年に及ぶ深刻な経済の停滞が続いた原因は、民間投資の収益性の低さにある。それを従来型の国内総需要喚起策で対処するのは困難である。発想を転換し、今まで議論に欠けていた投資の外部性の評価に目を向ける必要がある。

 最先端技術を体化した設備投資や、都市の環境を改善する都市開発、そして植林や代替エネルギー等の環境投資など、広い意味での環境に外部的影響を与えている経済活動は多く、逆に外部性を持たないものの方が少ないくらいである。このように外部性を考慮しない「私的」な収益率ではなく、「社会的」収益性を正当に考慮するなら、日本の投資の収益率は巷で考えられるほど低くはない。問題は、これらの投資を呼び起こす仕組みが存在しないか、著しく非効率的である、ということである。

 そこで、『社会投資ファンド』の創設とそれによる「日本への社会投資」の活性化を提案する。『社会投資ファンド』(SOITs: Socially-Oriented Investment Trusts)は、募った資金で資本ストックの購入をし、それをリースしてリース料を投資家に還元する。投資対象は日本社会や環境に外部的影響は与えるが私的収益性は低い資本ストック(設備や建物、あるいはパテントやノウハウ)である。『社会投資ファンド』の創成と監督を司る制度として、社会投資監督委員会と独立格付機関が必要となる。社会投資監督委員会は、『社会投資ファンド』の対象領域を決定し、社会投資税額控除の適格条件や優先順位のガイドラインを決める。社会投資監督委員会が具体的な投資案件を個々に判断することは困難であるので、不当な政治の介入を避け、効率性を追求するために、独立格付機関が必要である。入札はこの格付けの平均が高いファンドから、発行市場で入札を行うこととする。

 「社会投資ファンド」は、不良債権問題を新規投資拡大で解決しつつ、新しい社会投資主導権型経済成長を可能にする。大切なのは、従来の政府依存型ではなく、日本の企業や個人が、自ら主体的に『社会投資ファンド』を作り、積極的に投資して初めて日本の成長が可能になる。