執筆者 |
中山 一郎 (コンサルティングフェロー) |
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発行日/NO. | 2002年11月 02-J-019 |
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概要
近年、我が国でも「プロパテント」政策の必要性が議論されることがあるが、その前提には、米国では、80年代以降に「プロパテント」を推進したことにより、90年代に産業の競争力あるいは生産性が向上したとの認識があると思われる。そこで、本稿は、まず、米国における「プロパテント」の効果に関する研究を整理した。それらの先行研究による限り、米国における「プロパテント」が、規範的に考えるほどの効果、つまり「プロパテント」が創作活動を活性化し、それが企業の競争優位の獲得につながり、また、産学技術移転を進展させるという効果、を有していたかどうかは定かでない。
本稿は、また、「プロパテント」の問題点として提起された「アンチコモンズの悲劇」についても、論点を整理した。先行研究によれば、確かに問題点は存在するが、未だ看過し得ない程の弊害が生じているわけでもなさそうである。
「プロパテント」という変化が、規範的に考える程の効果を有しないとしても、その弊害が看過し得ない程顕在化していないとするならば、一定の範囲の「プロパテント」は知識経済の進展に伴う自然な帰結とみる余地までは否定されないであろうが、他方で、先行研究は、弊害が顕在化しない理由として、実用的な解決策の存在を指摘している。
今後、我が国でも、同様の実証研究が進められることが望ましいことはもちろんのこととして、これまでの主として米国における研究は、今後の我が国の政策立案に対しても、以下のような含意を持つように思われる。
(1) 実証的に明らかにされたとはいえない「プロパテント」の規範的効果を所与の前提として、制度改正の是非を論じるべきではないこと。
(2) 「アンチコモンズの悲劇」を杞憂とするための実用的な解決策が適切に講じられているかを不断に検証する必要があること。