日本の対外直接投資と空洞化

執筆者 深尾 京司  (ファカルティフェロー) /共著  袁堂軍
発行日/NO. 2001年9月  01-J-003
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概要

製造業を営む日系生産現地法人の売上は日本の輸出総額を上回るほどの規模に達しており、就業者比率や付加価値比率で測った日本経済に占める製造業の割合が90年代に入って急速に低下していること、80年代半ばまで国内で旺盛に雇用を創出していた電機産業や輸送機産業が90年代になると国内で雇用を減少させむしろ海外で活発に雇用を創出していることなど、空洞化をうかがわせるいくつかの現象が観察される。しかし製造業の低迷は、直接投資だけでなく円高や経済のサービス化等、他の原因で起きている可能性も否定できない。そこで製造業52業種のデータを使って、1987年から98年にかけて海外生産を拡大した産業では国内の実質生産にマイナスの効果があったか否かを、他の要因をコントロールしたうえでテストした。製造業分野への対外直接投資に限っても、投資先の安価な労働を利用したり新たな貿易障壁を飛び越えることを目的とし輸出代替や逆輸入を通じて国内生産にマイナスの影響を及ぼすと考えられる投資だけでなく、投資先の市場や資源の獲得を目的とし国内生産にプラスの影響を持つ可能性のある投資が含まれている。回帰分析では、このような問題意識から対外直接投資を相手先別(アジアとそれ以外)・動機別に区別して国内生産と純輸出への影響を推定した。この推定結果にもとづく試算によれば、アジア向けの輸出代替・逆輸入型直接投資は、製造業全体では58万人国内雇用を減少させる効果があったとの結果が得られた。雇用減少効果は繊維・衣類、電子・通信用機器、等の産業で著しい。ただし市場獲得を動機とする対外直接投資は国内雇用にプラスの影響を与えており、上記マイナスの効果をかなりの程度相殺していることも分かった。