自動車産業の生産性:
『工業統計調査』個票データによる実証分析

執筆者 深尾 京司  (ファカルティフェロー) /共著  伊藤恵子
発行日/NO. 2001年8月  01-J-002
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概要

我々は『工業統計調査』の個票データを使って、1980年代以降のわが国自動車産業の全要素生産性の変化とその決定要因を分析した。1981年から96年までの全要素生産性上昇率は、稼働率の変動を調整した場合でも、自動車製造業で年率約0.6%、自動車部品製造業で年率は約1.3%にとどまった。先行研究において、1980年代初頭までの自動車産業のTFP成長率が年率3.9~4.7%と推計されているのに対して、この1.3%という数字は非常に低い水準といえよう。

自動車産業全体の生産性が停滞する中で、自動車メーカー間の生産性格差は1980年代以降顕在化した。格差は生産性上昇率だけでなく、在庫率やプライス・コスト・マージンについても観察された。比較的生産性の上昇が高かった自動車メーカーでは、その系列部品サプライヤーの生産性上昇率も高かった。またこのような好調な系列グループでは、部品サプライヤーが組立事業所の近隣に比較的集積し、技術知識の共有を通じて生産性が上昇した可能性が高いとの結果が得られた。なお部品サプライヤーを比較すると、取引先自動車メーカーが活発に研究開発を行っているほど、その生産性上昇率は高いことがわかった。独立系のサプライヤーと系列サプライヤーの比較では、必ずしも独立系サプライヤーの方が生産性上昇率が高いとの結果は得られなかった。