規制緩和推進の現状と一層の推進のための方向と課題:米・英等との比較を含めて

執筆者 江藤 勝/山内 弘隆/中内 正希/秋吉 貴雄
発行日/NO. 1998年8月  98-DOJ-92
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概要

本稿では、この10年余にわたって進められている日本の規制緩和の現状を、米英等と比較しながら、その経緯・背景や意義・目的を明らかにし、またその進捗の程度、これまでもたらされている経済的諸影響を分析した後、さらに、政治経済学的視点や制度的比較の視点から日本の規制緩和の特徴を分析し、最後に今後の規制緩和の一層の推進のための方向と課題を明らかにしている。

第Ⅰ章では、(1)経緯・背景の比較において、他については基本的に同じだが、日本の経済的成果が米英等に比べて、90年代初めごろまで良かったことが、日本の規制緩和への取り組みを遅らせた一因になったことを指摘し、(2)現時点での意義・目的は、グローバル化、情報化、少子・高齢化、フロント・ランナー化という、日本の経済社会環境の中長期的変化によりもたらされている諸課題に、抜本的経済構造改革により対応していくための、最大かつ最適な手段の一つになること、また、他の諸改革の通底的改革手段となり、かつ、日本の社会構造や日本人の意識や行動様式を分権的、主体的なものに変えていく手段となることにある、としている。

第Ⅱ章では、規制緩和の進捗状況の程度を分析した結果として、日本が規制の多い国であるため、数量的には極めて多数の規制緩和措置がとられてきたが、参入・退出ないし需給調整規制及び価格規制の緩和措置は、極めて緩やかに進められており、この意味での質的な進捗は、米英と比べて極めて遅れているとしている。また、規制緩和の結果、行政機関・予算・公務員数などがどのように再編・縮小されたかについては、日本は明確でないとしている。他方、規制緩和の進展の一方で、ルール強化や環境規制などの強化も行われていることも指摘している。

第Ⅲ章の経済的諸影響の分析結果としては、全てがこの影響かは留保が必要としながらも、米英においては、価格・料金の低下、生産性の上昇、消費者余剰等の拡大、雇用はミクロで増減半々・マクロで増大、商品サービスの多様性・利便性の拡大、寡占度は上昇したものと下降したものに分岐、技術革新の進展等が指摘され、一方で、倒産多発、賃金低下、所得分配の不平等度の拡大も指摘されている。日本については、一般的に、新規参入の拡大、輸入拡大、価格・料金の低下、生産性上昇、消費者余剰の拡大、購買力平価の改善、産業レベルの雇用の拡大、GDP拡大への貢献等が確認される一方で、対内直投の不振が指摘されている。今のところ、賃金低下や所得分配の不平等化、米英のような失業・雇用問題は確認されていない。今後の一層の推進に備えて、雇用・ユニバーサルサービス等への対策が進められている。さらに、今後の推進による経済効果に関する内外の予測については、日本は、成長率の押し上げ、生産性向上、価格低下等の面で極めて大きく、雇用はほぼ増減バランスする、と整理している。

第Ⅳ章の一般的な、政治経済学的な分析による日本の規制緩和の特徴は、参入や退出を政府が管理しつつ行ってきたこと、規制権限の集中が見られること、省庁が裁量権を持っていること、円滑で一貫性を持って推進してきたこと、規制機関が独立していないこと、進捗が緩やかなこと等であるとし、さらに、米国の規制緩和が成功した要因を5つ挙げている。

第Ⅴ章では、規制緩和の政策過程について政策科学的分析手法から分析している。具体的には、修正サバティア・モデルを使用して、日米の航空産業の比較分析を行っている。その結論として、日米の規制緩和の意義や程度の捉え方の差、推進した政策エリートの構成の差、「鉄の三角形」の三者間の距離の差、政策決定の場の差等、を指摘している。

第Ⅵ章では、今後の規制緩和推進の考え方として、「規制緩和」から「規制改革」への用語・概念の転換、国際的視点の一層の拡大・強化、包括的・段階的・連続的かつできるだけ急速な規制緩和の推進、行政改革・公共部門改革との一層の関係強化を挙げている。さらに今後の主要分野として、第Ⅱ章で指摘された質的規制に関するもの、民民規制、認証・検査等規制、地方規制等を挙げ、また、優先順位についても論じている。さらに今後の経済的規制・社会的規制のあり方を、全体的視点から展望し、かつ、今後必要な規制手続や制度として、パブリック・コメント制度や第三者ないし独立規制機関の設置、中立的紛争処理システムの強化、公取機能等の強化、司法インフラの整危機備強化、情報公開法の早急な制定、公務員制度の抜本的見直しを提言している。また、今後の規制緩和の推進に伴う諸問題への対応の方向を探るため、米英で生じている問題、及び、日本でこれまで学識経験者によってなされている規制緩和の問題点の指摘や警告を整理した後、それらに対して、(1)規制緩和だけでなく強化も行われていること、(2)「雇用」「分配」「安全」「ユニバーサルサービス」「寡占的弊害」等すべて重要な問題であり、政策的対応を要するものであること、(3)規制緩和のコストを考えるのみでなく、規制のコストも考えるべきこと、(4)経済危機対応への他の方法や選択肢を示すべきこと、(5)日本の伝統の破壊には必ずしもならないこと、等を主張している。

そして最後に規制緩和の推進と同時に、今後、新たな政府の役割についての議論や検討が、一層なされることを期待している。