資本市場の自由化とメインバンクの機能の低下

執筆者 久武 昌人/大岩 保宏
発行日/NO. 1998年4月  98-DOJ-88
備考

※研究シリーズとして刊行

概要

日本の企業金融において、メインバンクは企業と融資・株式保有・役員派遣等の多元的な関係を通じて重要な役割を果たすと一般的に理解されている。しかしながら、近年、企業とメインバンクの関係に変化が見られると言われる。

本論では、メインバンク関係の時系列的な変化とその要因を把握するために、メインバンクの基本的な機能であるエージェンシー・コスト削減効果に着目して実証分析を行った。その結果、資本市場に強い規制が存在する時期には、メインバンクは借り手企業についての情報生産を行ってエージェンシー・コストを削減するという役割を果たすが、資本市場の自由化が進展した時期には、メインバンクによるエージェンシー・コストの削減効果は明確には観察されないことが分かった。

我々の分析結果は、証券市場に対する規制等の金融抑制によって適当なレントを発生させることで銀行による効果的な企業モニタリングが実現されるとの見解や、銀行貸出と代替的な資本市場の出現がメインバンクの機能を低下させるとの指摘と整合的である。

また、こうした変化の背景に、次のような実態があることが我々の分析により示された。即ち、社債の発行が可能な優良企業とメインバンクとの関係は弱いものとなっていく一方で、信用状態の良くない企業とメインバンクとの関係は維持・強化される傾向が観察される。

金融制度改革が進展する中で、企業とメインバンクの関係はさらに弱まっていく可能性が高い。個人貯蓄を吸収して大企業に資金を提供するという点にメインバンクの存在意義を見出すことはもはや困難であり、今後は、メインバンクとの密接な取引関係を必要とするのは中小企業に限定されるようになるであろう。こうした環境変化に対応するためには、現在の担保主義からの脱却を図り、企業の事業性や技術に対する評価力を強化していくことが、銀行にとって喫緊の課題である。