経常黒字急減の原因

執筆者 村上 世彰/小滝 一彦/和田 義和
発行日/NO. 1997年5月  97-DOJ-82
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概要

近年、我が国の経常収支の黒字幅が急減している。これに対する代表的な論調では、経常黒字の縮小を国力の減少のように憂慮するとともに、その原因を、日本企業の海外進出に伴う逆輸入の増加と考えている。しかし、経常収支とは、国際的な資金の需姶であり、それ白体に善悪はない。また、輸出入の個別構成要素を、経済全体との相互作用を考えずに観察することは、経常収支の総額を分折する方法としては、不適切である。

経常黒字とは、海外に対する投資・融資であり、国内の貯蓄と投資の差額である。国内の貯蓄・投資バランスを部門別、要因別に観察すると、家計部門の住宅投資と、法人部門の設備投資が、景気回復により増加しており、国内の貯蓄超過の減少に寄与している。しかし、ここ数年の経常黒字の縮小の最も重要な要因は、90年度のほぼゼロから95年度の26兆円、GDP比6%にまで急速に拡大した財政赤字であると言える。

「逆輸入原因説」の根拠となる部分分折には限界があるが、個別の輸出入動向からも、対アジアの貿易黒字の減少は、対先進国の貿易黒字の減少より穏やかである。海外に進出した日系製造業現地法人の活動も、依然として経常収支の黒字要因である。

今後の経常収支は、高齢比による貯蓄の減少や、財政赤字の削減の難航が予想されることから、長期的に大幅な黒字が継続する見込みは少ない。適切な資金需給の結果である限り、経常収支に善悪はないが、昨今の経営黒字縮小の主因は、将来の世代に大きな負担を残す財政赤字の拡大であることを深刻に受け止めるべきである。