企業の多角化・集中化:本社の事業展開と子会社の事業展関

執筆者 森川 正之
発行日/NO. 1997年4月  97-DOJ-80
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概要

本稿は、企業の事業構成(多角化・集中化)及び事業転換をめぐる先行研究をサーベイするとともに、「企業活動基本調査」(1992年、1995年)の公表されだデータを使用して、最近の日本企業(鉱工業)の事業展関について観察事実の整理及び若干の分折を行ったものである。

本稿の主な結論は次の通りである。

1)企業の事業分野の多角化・集中化をめぐる先行研究によれば、企業の多角化は、本業に関連する分野に向けて行われる傾向がある。また、企業の多角化を促進する要因として、企業(事業所)規模の大きさ、利潤変動の抑制、本業の成長鈍化、進出先の成長の速さ、研究開発集約度の高さ、資本集約度の高さ、市場集中度の高さ、などが指摘されている。企業の多角化は企業の成長に対してプラスの効果を待つが、利益や生産性への効果は不明瞭であり、最近は逆に多角化のデメリット、事業分野の特化・集中化の重要性が指摘される傾向にある。

2)日本企業の事業展開を見ると、「本業」のウエイトが高く、長期不況下の最近3年間で本業集中化の仰向は強まっている。子会社・関連会社においても本業のウエイトがかなり高く、本社の事業構成と同様に、最近本業集中化の傾向が強まっている。

3)本社(企業本体)の事業構成と子会社・関連会社の事業構成を比較すると、かなり類似性が高い。このことは、「企業の境界」を決定する要因が産業特製ではないことを示唆する。

4)企業の事業構成を規定する要因については、研究関発集約的な企業ほど本社の事業多角化度が高い傾向にあった。子会社・関連会社の事業構成を規定する要因は本社のそれを規定する要因とは全く異なっており、「本業」の成長の鈍化は本社ではなく子会社・関連会社の多角化を促進する効果を待つ。企業規模についても同様に本社よりは子会社・関連会社の多角化にプラスの影響を待っている。

5)研究関発集約度の高さ、外資比率の高さが子会社・関連会社を通じた事業転換の大きさに影響を与えていた(前者はマイナス、後者はプラス)。研究開発は、本社に対してと子会社に対してとで異なった影響を待っており、「企業の境界」を規定するひとつの要因である可能性が示唆される。

6)非本業比率の高さ及びその上昇率が大きいほど利益率が高いという関係を示唆する結果が見られた。近年、日本企業は本業集中化の傾向を強めてきているが、少なくとも、これまでのところその経営パフォーマンスへの効果は現れていない。

7)政策的には、企業法制や税制、あるいは調整援助政策において、子会社・関連会社を通じだ事業展開に対して中立的な制度の整備等を行うことの必要性が指摘できる。