我が国賃金制度の変革について:その業種間比較

執筆者 久武 昌人/橘木 俊詔
発行日/NO. 1997年4月  97-DOJ-78
備考

※研究シリーズとして刊行

概要

年功型賃金体系は、我が国の賃金構造の大きな特徴の一つであるとされる。その存在理由については、これまで様々な研究が行われ、代表的な理論仮説も存在する。しかしながら、これまでの実証研究においては、業種別、企業別といったミクロな視点での分析はほとんど行われていない。実際に労働者の賃金を決定するのは企業であり、賃金体系はその企業の業績及びその見通し、経営方針等様々な要因によって決定されるのであろう。我が国においては業種ごとに他企業との「横並び」に相当程度の配慮がなされると言われている。

我々は、日本の賃金体系について、賃金構造基本統計調査の個票を用いて、業種別の分析を行った。具体的には、1979年、84年、89年、94年の四調査年において業種ごと、職種ごとに賃金関数の推計と賃金の変動係数の算出を行い、その時系列的変化についての分析を行った。その分析結果の要点は以下の通りである。

製造業においては、年功的賃金体系の変化の仕方は各業界によって相当異なるが、ブルーカラー労働者については、時系列的に見て総じて年功度が減少する傾向にある。一方、ホワイトカラー労働者については、基本的に年功的賃金体系が維持されている。

非製造業も含めた産業大分類の業種におけるホワイトカラー労働者について分析を行うと、金融・保険業では年功制が崩れてきているが、他の業種については、94年調査時点においても、年功的賃金体系が維持されている。

業種間で賃金体系の変化に差異が生じる理由の一つとして、各業種の成長見込みの違いが挙げられる。実証分析の結果では、その時点で成長見込みが高い業種ほど賃金体系は年功的になっている傾向にある。

また、別の理由として業種間の平均賃金の違いが考えられる。実証分析の結果では、高賃金の業種ほど賃金体系における年功度合いは低いという傾向にある。

本研究により、近年我が国の年功型賃金体系が明らかに変化を見せていること、その変化は業種及び職種によって大きく異なっていることが明らかとなった。