メインバンクとは

執筆者 久武 昌人/大岩 保宏
発行日/NO. 1997年4月  97-DOJ-77
備考

※研究シリーズとして刊行

概要

日本の企業金融においてはメインバンクが重要な役割を果たすとされている。メインバンクは日本型企業システムの基本的な構成要素とされており、戦後の我が国経済の発展に貢献してきたとの認識が一般的であるが、近年は、メインバンクの機能が低下しているとも言われている。

既存の理論研究によれば、メインバンクは、(1)企業のエージェンシー・コストの削減、(2)企業に対するモニタリング、(3)企業とのリスク・シェアリングの三つの役割を果たすとされている。これらのメインバンクの機能に関する実証研究の結果を見ると、エージェンシー・コストの削減効果についての分析はメインバンクが効果的に役割を果たすことを示しているが、他の機能についての分析はメインバンクを持つことの効果は通念上理解されているほど顕著ではないことを示している。

さらに、我々の分析によれば、メインバンクの機能の時系列的な変化について以下の二つの事実が明らかとなった。第一に、資本市場に強い規制が存在する時期には、メインバンクは借り手企業についての情報生産を行ってエージェンシー・コストを削減するという役割を果たすが、資本市場の自由化が進展した時期には、メインバンクはエージェンシー・コストの削減を効果的には行い得ない。第二に、メインバンクのエージェンシー・コスト削減が効果的ではなくなった背景には、資本市場が自由化すると、社債の発行が可能な優良企業がメインバンクとの関係を弱める一方で、信用状態の良くない企業はメインバンクとの関係を維持・強化するという実態がある。

金融制度の規制緩和が進められる結果、社債を発行可能な大企業の銀行離れは一段と加速するであろう。今後は、 メインバンクとの密接な取引関係を必要とするのは情報が公開されていない中小企業に限定されるようになると考えられる。銀行にとっては、企業の事業性を評価する能力を強化していくことが喫緊の課題である。