日本の一経済学者から見たAPEC

執筆者 小宮 隆太郎
発行日/NO. 1996年7月  96-DOJ-71
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概要

日本の通商政策当局はAPECの形成と発展に非常に熱心であった。そのような日本にとって1980年代の後半以降、二つの憂慮すべきことが世界貿易体制の中で進展している。一つめはウルグアイラウンドが順調に進展しなかったことであり、二つめはグローバリズムに反する要素を含む流れである地域主義の拡大である。アセアン諸国、オーストラリア、日本及び韓国は自由で多角的な世界貿易システムの維持と発展を望み、同時にEUと北米ができるだけ開放的であり続けることを望んでいた。また、APECにより西太平洋諸国のアメリカやEUに対する交渉力が強まることも期待されていた。

APEC加盟国は2010年または2020年までに貿易と投資を自由化することに同意したがその言葉の意味については明確ではない。APECにおける貿易と投資の自由化を促進するためのこつの方式、MFN方式と相互主義方式について、私にはどちらの方式にも難点があるように思われる。多くの東アジア諸国は、少なくとも今のところは、自由貿易地域を形成することを意味する後者の方式には好意を持っていない。これに反してアメリカは、APEC自由化の恩恵にEUをただ乗りさせるようなMFN方式には否定的である。

日米間の「貿易摩擦」の摩擦熱はかなり低下してきており、この趨勢は多かれ少なかれ続くであろう。日本が非常に高い貿易障壁を有しているとの観念が広く受け入れられているが、これは間違った見方である。

日本政府は農産物も自由貿易の対象に含めるであろうか。日本では「農業県」は相対的に貧しく経済的に停滞しているが政治力は強い。日本の農業保護政策は当面は多かれ少なかれ続くであろう。しかし、国民の多数派が自由貿易体制の維持を支持しているので、現在以上に農産物輸入に対する貿易障壁が高められる可能性も少ない。現在日本は世界最大の食料輸入国であり、その食料輸入額は1987年から1994年までの間の7年間に2倍に増加した。今後日本の農業生産は停滞ないし低下していくと予想され、日本の食料輸入は将来着実に増えるであろう。

APECはこれまでのところ大きな成功を収めてきた。これからの数年間のAPECの評価は、加盟諸国の貿易・投資・経済協力の自由化と促進がどれだけ進むかにかかっているだろう。