日本の製造業における比較優位の変化とその決定要因

執筆者 浦田 秀次郎/河井 啓希/木地 孝之/西村 太郎
発行日/NO. 1995年7月  95-DOJ-67
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概要

1960年から90年の間に、日本の産業の比較優位と比較優位を規定する要因が大きく変化した。本稿では、比較優位の変化を検討すると共に、比較優位の決定因を統計的手法を用いて分析した。比較優位の決定因としては、従来からの分析の対象となっている産業での生産に必要な生産要素の集約度で表した技術的要因だけではなく、産業政策および産業組織に関連した要因も検討した。

製品の生産に必要な生産要素集約度に注目してみると、比較優位を持つ製品は、労働集約的なものから物的資本集約的、人的資本集約的、技術集約的なものへと変化してきた。この間、日本の経済は急速に成長していることから、比較優位パターンは経済の発展段階と密接に関係していることが分かる。

日本で採られてきた産業政策は、ある時期、産業の比較優位の決定に影響を与えたと思われる。具体的には、関税による保護は60年代のある時期において産業の比較優位の向上に貢献したことが観察されるが、70年代以降になると、そのような効果は消滅する。この結果は、経済が発展途上の段階にある場合には産業政策が有効に機能する場合もあるが、発展に伴って産業政策の有効性が減退することを示唆している。政策金融は多くの期間において産業の比較優位の向上に寄与してきたことが示されたが、補助金、政府調達は比較優位を低下させるような効果を持った。ある特定産業に対する優遇政策であってもこのように対照的な効果を持った理由としては、政策金融と補助金及び政府調達の適用方法の違いがある。つまり、政策金融を供与された企業に対しては効率性の改善に対する圧力がかけられたのに対し、補助金および政府調達の対象となった企業はそのような圧力をかけられなかったことが、それぞれの措置の比較優位への異なった影響となって表われたと思われる。

産業組織との関連では、下請制度が製造業の比較優位の向上に貢献してきたことが観察された。この観察結果は、少なくとも二つの興味深いインプリケーションを持っている。一つは、生産における下請制度のような生産システムの重要性である。ある産業の比較優位の向上にあたっては、生産に従事する技術者の能力といった技術的側面の重要性が指摘されるが、効率的な生産を可能にする生産システムをどのように組織するかという点も重要である。 もう一つのインプリケーションは将来における日本の比較優位パターンの変化に関するものである。日本企業は積極的に対外直接投資を行っているが、その結果、下請制度が崩れつつある。ここでの分析によって求められた結果から推測すると、下請制度の崩壊は日本の産業の比較優位パターンを大きく変化させる可能性がある。