対外証券投資にみる資本移動

執筆者 谷地 正人/渋谷 稔
発行日/NO. 1995年7月  95-DOJ-66
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概要

国際収支統計上の「資本収支」は、企業行動全体から見ると水面上に現れた氷山の一部であり、本稿の視点は主に機関投資家の証券投資行動を切り口として資本移動を考えるところにある。

1980年代は金融勘定の赤字、特に為銀部門の赤字基調がほぼ継続していた。これは為銀が海外から巨大な資金を短期調達していたことを示す。1990年代に入ると、80年代とは逆に金融勘定の黒字が続き、為銀は短期調達していた資金を返済している。

かつて経常黒字以上の資本を金融勘定で短期的に賄った調達者は為銀であり、その運用者は機関投資家であった。証券投資の多くが含まれる長期資本収支の動きを把握するには「短期の資本取引」を構成する短期資本収支と金融勘定とあわせてみる必要がある。

また、機関投資家の対外証券投資行動の背後には、例えば、株価の「含み」などが大きな要因として考えられる。「含み」は資産価格の変化であり、資産価格の変化が企業行動に対してさまざまな影響を与えたということである。

いわゆる「バブル」現象の後、内外の金利差が縮小しはじめ、かつ「含み」が減少し始めると対外証券投資のインセンティブは低下した。海外でのエクイティファイナンスも減少し、その一環としての外債発行も急減するなどの現象が生じた。

資産価格の変動が非金融機関や金融機関の行動に影響を与えたと思われる減少は、国民経済計算のような比較的マクロ的なデータからもうかがえる。あるいは、生保では対外証券投資の運用資産に占める比率を「株式の含み」と「為替レート」と運用規制の「緩和ダミー」などでかなり説明することもできる。ただし、この推計結果は近年の生保の投資行動が、上記の要因だけから見ると慎重すぎる傾向にあることを示唆することになる。推計で追えない部分をヒアリングなどで補うと、機関投資家内部での資金調達と運用のバランスが必ずしも適正でなかったのではないか、といった問題点などが浮かび上がってくる。対外証券投資という切り口で機関投資家の行動をみていくと、結局、企業の行動がどのように決定されているかを明らかにすることが必要になるといえる。この点、さらに詳細に研究する余地が大である。

一連の議論で、為替レートは所与のものとして議論をすすめた。逆に対外証券投資を含む資本収支から為替レートへの影響も検討する必要がある。ただし現行の国際収支表からそれを試行することには無理があり、合わせて新国際収支表による改善が求められる。