円高と物価:輸出価格転嫁及び輸入価格の国内浸透

執筆者 森川 正之/和田 義和/上松 謙一
発行日/NO. 1995年5月  95-DOJ-61
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概要

1993年初以降の円高の進行は、マクロ的なディスインフレーション、「価格破壊」に代表されるような各種財・サービス間の相対価格の変化、国際比較した内列・価格差の顕在化など、日本の物価に大きな影響を及ぼしている。そして、それは製造業の生産の海外移転や海外調達の拡大など日本企業のグローバルな展開や様々なリストラに向けた取り組み、規制緩和をはじめとする政府の政策的対応など日本経済の構造変化と結びつきながら進んでいる。

今回の円高局面における日本からの輸出に関する為替転嫁率(パススルー率)は、前回円高時よりも高い。今回の為替転嫁率の高さには、海外の需要要因が関わっていると考えられるが、特に、資本財を中心とした機械類の為替転嫁率が高くなっており、アジア諸国の経済発展や日本企業の海外生産活動の活発化の下、製造機械等に対する海外の需要が旺盛で、かつ、日本からの輸出がそれらにとって不可欠となっていることを伺わせる。いわゆる日本企業の「低価格輸出説」については、総じて否定的な結果が得られた。前回円高時に見られた輸出自主規制等の貿易制限的措置による価格形成への歪曲という現象については、今回は目立ったものはなかった。

円高に伴う輸入価格低下とその国内物価への波及について、「輸入価格浸透率」、国内価格低下の理論値と実績値の乖離などについて、前回円高期と比較しつつ検討を行った結果、生産集中度をはじめとする産業組織上の諸要因が前回は有意だったが今回は有意な関係が見られなくなったという注目すべき結果が得られた。これは、日本の産業組織に大きな変化が生じつつあることを示唆している。