為替レートはどう決まるか

執筆者 小宮 隆太郎/森川 正之
発行日/NO. 1995年4月  95-DOJ-58
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概要

本稿は、フロート制のもとで為替レートがどう決まるかについて、経済学の標準的と思われる考え方を整理して説明しようとするものである。為替レート決定理論は、「短期」、「中期」、「長期」に区分して考えるのが適当である。短期の為替レートは、資産の価格という性格が強く、短期の為替レート決定に最も大きな影響を及ぼすのは、将来の為替レートに対する人々の「予想」である。 しかし、予想がどのように形成されるかについて、一般的妥当性のある理論は存在しない。人々の予想は短期的にグラグラと変動しやすく、中期、長期の「ファンダメンタルズ」によって決定される「均衡為替レート」からかなり乖離することがある。

為替レートの中期的変動に関して、標準的と考えられる理論は、「マンデル=フレミング(MF)理論」である。MF理論において、金融緩和(マネーサプライの増加)は、国内の金利を引き下げ、所得を増大させ、為替レートを減価(円安化) させる。財政政策(政府支出の増大)は、金利を引き上げ、為替レートを増価(円高化) させる。輸入を促進する政策は為替レートを円安化し、輸出を促進する政策は為替レートを円高化するが、それらの政策が経常収支に及ぼす効果は為替レートの変化の効果によって相殺される。外国における金利の上昇は、為替レートを円安化させる。

長期では名目為替レートよりも実質為替レートが中心的な関心事である。一般物価と輸出物価とが同様の動きをするという単純化の仮定を前提とすると、実質為替レートは交易条件の逆数に等しい。「購買力平価説」は交易条件が一定であることを主張していることになるが、多くの国の交易条件は長期にわたり一定ではなく、「購買力平価説」は長期理論として限られた妥当性しかない。貿易理論によれば、ある国がその貿易相手国よりも高い率で成長することは、その国の交易条件を悪化させ、実質為替レートを減価(円安化)させる要因である。需要面については、輸入財に対する需要の所得弾力性が高いことは交易条件の不利化(実質為替レートの減価)を強める要因であり、自国の輸出財に対する需要の所得弾力性が高いことは交易条件の不利化を緩和する要因である。トランスファーと交易条件の理論によれば、経常収支黒字は一般に交易条件を不利化させ、したがって実質為替レートを減価(円安化)させる。