執筆者 | 小田切 宏之/絹川 真哉 |
---|---|
発行日/NO. | 1995年3月 95-DOJ-54 |
ダウンロード/関連リンク |
概要
本論文は日本の先端技術産業における研究開発(R&D)の経済効果をトランスログ型費用関数を用いて分析する。特に、研究開発が正の外部性を持ち、その成果が他の経済主体にスピルオーバーしていく点に着目し、先端技術産業の費用構造を分析する際に、自産業の研究開発の経済効果だけではなく他産業の研究開発からの経済効果も考慮して分析した。分析対象とした産業は電気機械工業、輸送用機械工業、機械工業、化学工業の4産業である。
研究開発の成果は次の2つの経路によって他産業にスピルオーバーして行く。1つは企業が購入する中間財や投資財に研究開発の成果が体化されていることにより起きるスピルオーバーであり、もう1つは業界紙や技術者の移動などにより起きる技術知識のスピルオーバーである。本論文は、まず、この2つの経路によるスピルオーバーの可能性をそれぞれ「技術フロー」、「技術距離」の概念を用いて計測した。そして、電気機械工業、輸送用機械工業、機械工業、化学工業の各産業に対してスピルオーバー・ソースとなっている可能性がある産業を、「技術フロー」の大きい産業、「技術距離」の近い産業の中から選択し、それら産業の研究開発が上記の4産業に対して生産費用減少の効果を持つかどうかについて検証した。
本論文の分析から得られた主な結果は以下の2つである。
(1) 各産業においてR&Dストックの蓄積効果が進み、電気機械工業では1960年代から、輸送用機械工業と一般機械工業では1970年代後半から、そして最も遅い化学工業では1980年代後半から生産費用を低下させる効果を発揮し始め、その効果は時とともに増加傾向にある。
(2) 産業間でのR&Dスピルオーバーが存在し、電気機械工業と化学工業は主に中間財や投資財を通して、一般機械工業は技術知識を通して他産業の研究開発の成果を受け取っている。
このような産業間のR&Dスピルオーバーの存在はR&Dの社会的収益率が私的収益率を上回っていることを示している。