新規技術の標準化:電気・電子機器におけるケース・スタディ

執筆者 黒木 昭弘/加藤 章
発行日/NO. 1994年5月  94-DOJ-51
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概要

電気・電子機器における標準化とは、データやソフトの互換性、相互運用性、相互接続性を確保することと理解されるが、80年代のいわゆる「ビデオ戦争」のように、近年、電気・電子機器等のうちで「『標準化』が行われず、消費者に被害を与えている」と批判されるケースが発生している。しかしながら、このような問題点に関し実証的な分析は必ずしも十分に行われていない。本研究では、特に電気・電子機器を取り上げ、聞き取り調査等を通じて、主として消費者の利益確保の観点から様々な標準化事例について検討を行い、問題点を抽出するとともに今後の対応を探った。

まず、標準化の「成立」について見ると、従来は、自由競争を通じて、一つの規格が他の規格を駆逐する形でデ・ファクト・スタンダード(事実上の標準)が成立するのが一般的であったが、消費者が不利益を被ることが多く、最近では有力複数企業が共同したり、全メーカーが懇談会を組織して合意を形成する「事前の標準化」が主流となってきている。その際、ソフトウェア産業からの標準化圧力があったり、デ・ファクト・スタンダードによる標準化の学習効果等がある場合は、標準化が達成されやすく、一方、企業が標準化以前の自社製品の顧客が失われる可能性を恐れる場合は、標準化が達成されにくい。

また標準化の「維持」について見ると、絶え間ない技術進歩と消費者ニーズの高度化に伴い、標準の陳腐化は従来より速くなっており、いったん決めた過去の標準との互換性を保持しつつ、企業側・消費者側のニーズを効果的に取り込むことが重要である。この場合、第一にもともと将来の技術進歩を阻害するような「成長性のない標準化」がなされるべきではなく、そのような標準は実際に企業に採用されにくい。第二に技術的進歩性と従来機器とのデータ・ソフトの(下位)互換性の両者が重要であるが、特に後者を重視した標準改訂の方が、市場に受け入れられやすい。

標準化によって技術進歩が阻害されるとする意見が、標準化の反対意見として主張される場合があるが、標準は成長性があるように比較的柔軟に作られること、強制力もないこと等により、標準化が技術進歩を阻害しているケースは我々の調査では発見されなかった。また、新規技術を開発した企業は、一般的に創業者利益を独占しようとはせず、製品の完成度の向上や早急な市場開拓の必要から同業他社との間での標準化を目指す場合が多い。

今後は、標準化に従事する者を企業内で積極的に評価するとともに、消費者ニーズと機器の高度化・複雑化に対応しつつ、迅速(ビジネス・チャンスを逃さないような)かつ広範な(マルチメディア等業種をまたぐような)標準化を図ることが必要となると思われる。また、準公的なテスト・センター等を設立し、標準の遵守状況をテストすること等も必要となるであろう。