『系列』は閉鎖的か:ローレンス論文の批判的検討

執筆者 瓜生 不二夫/砂田 透/中橋 靖
発行日/NO. 1992年6月  92-DOJ-38
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概要

近年米国をはじめとした海外の実業界、学界においでは、日本企業の企業間関係である「系列」を日本市場の閉鎖性の原因とし、輸入や対日直接投資の障壁となっているとする批判がある。例えばロバート・ローレンスは論文「効率的か排他的か。日本の企業グループの輸入行動」において、日本の主な製造業37業種を選び、各産業の輸入比率、輸出比率と各産業における「系列」企業の販売シェアの関係を計量的に分析した。彼はその中で、(1)垂直的「系列」は輸入比率の低下をもたらすと同時に輸出比率の上昇をもたらしており、経営効率の向上を通じて輸入抑制、輸出増大の両方の効果があるが、(2)水平的「系列」は輸入比率を低下させるが輸出比率には影響を与えておらず、輸入障壁となっていると結論づけている。

しかし、ローレンスの議論を慎重に検討していくと問題点は多く、上記のような結論は導き出せない。 ローレンスは、モデル分析により計量的に「系列」が輸入障壁となっていることを証明したとしているが、モデルの構成、データ、計算結果のいずれについても信悪性に乏しい。

近年、米国においては「系列」が日本市場の閉鎖性の原因となっているという議論が盛んであるが、例えば六大企業集団の集団内取引比率は1割以下であり、その比率は年々低下してきている。加えて、取引先の選択基準についても水平的「系列」、垂直的「系列」ともに「品質」「価格」「納期」等の経済合理性に基づく基準が重視されており、同一グループに属するか否かはさして重要性をもっていない。言い換えれば、輸入品であっても良質・廉価な製品には新規参入の余地が十分にあり、「系列」の存在と輸入の水準には関係があるとは思われない。

日本の製品輸入比率は、近年大幅に上昇したが、なお欧米に比べて低いのは、第一にハイテク産業を中心とした製造業分野での日本の比較優位、第二に近隣に所得水準、技術水準、文化・社会的慣習の近い有力な工業国がないという日本の地理的要因、第三に欧米企業の日本の消賀者・企業のニーズに対する認識の不十分さによるものと考えられる。

我が国としても、今後政治経済上の重要課題として輸入の一層の促進等に引き続き取り組む必要があるが、「系列」現象についての極めて不十分な認識に基づき、それを日本市場の閉鎖性に結び付ける議論は迷惑千万と言わざるを得ない。