電気事業への競争導入に関する研究:米国、英国における試み

執筆者 黒木 昭弘/福岡 徹/大谷 太助
発行日/NO. 1991年8月  91-DOJ-32
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概要

本研究においては、電気事業における規制の重要な根拠となる「自然独占性」について諸外国で行われている議論を検討するとともに、米国及び英国において過去に実施された及び現在実施されている制度に関して、その内容を調査するとともに、それらの制度を比較することを試みた。

電気事業については、多くの国において、特定の企業に一定の地域の独占的供給権を認める一方で、その特定企業が独占利潤を得ることを防止する目的で企業の価格決定を直接的に規制する制度がおこなわれている。このような制度が用いられているのは、電気事業が「自然独占性(natural monopoIy)」を有すると考えられているからである。

この自然独占性とは、市場の需要規模に比較して「規模の経済性(economy of scale)」が大きい範囲に存在する場合に生じると考えられ、また、それは、費用に占める「埋没費用(sunk cost)」が大きい場合に維持されると考えられる。

しかしながら、近年、電気事業の発電分野に限ってみれば、自然独占性が存在する範囲は狭く、複数の企業が競争しつつ、発電事業を運営することが可能であるとの考えが生まれており、この考え方により、米国及び英国において次のように電気事業に競争の導入が行われている。

米国では、省エネルギー・石油代替エネルギー育成を目的として公益事業規制政策法(Public Utilitiy Regulatory Policies Act)が制定され、これにより発電部門への新規参入者が育成された。しかし、一方ではこの制度では、電力の卸売価格の決定が困難になる等の問題点が指摘された。この問題に対処するため、一部の州では新規に建設する発電設備について入札する制度が導入されている。

英国では、1983年電力法により、新規の発電事業者を育成するために、既存の電気事業者に一定の料金表によって電力を購入する等の義務を課したが、発電部門へ新規参入は生まれなかった。1990年に入り、英国のイングランド・ウエールズ地域において電気事業は民営化されるとともに、発電・送電・配電の3部門に分割されることとなった。そして、発電部門においては、従来の発電部門が分割されて設立された発電事業者と新規発電事業者とにより、日々の入札による価格競争が行われることとなった。 また、電力の小売(配電)部門においても競争が導入されている。

両国の発電部門における競争導入政策は、共に参入機会の拡大による供給能力の拡大と競争による価格の低廉化を目指している。米国の制度は参入後のリスクが少ない点で英国の制度と比較して前者に優れているといえよう。価格の面については単純な比較は困難である。しかし、共に実質的な競争が行われることを確保するための措置の検討は必要であると考えられる。

一方、発電部門における競争は英国においてのみ行われているが、委託輸送の強制の是非、料金の公平性等の問題が指摘される。

いずれにせよ、これらの制度は導入されたばかりであり、今後の評価・制度の修正等を注視していくことが必要であると考えられる。

なお、本研究においては、技術面での問題は今後の検討課題とし、経済理論及び制度面での検討を中心としている。