中国における1987~90年の政治経済的過程と体制改革の基本的諸問題

執筆者 小宮 隆太郎
発行日/NO. 1991年7月  91-DOJ-30
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概要

1987~90年に起こった中国の政治経済的過程上の出来事、あるいはそれに関連する(また今後関連するであろう)大きな出来事として、1988~89年の「第二次」経済過熱、天安門事件、ソ連・東欧における旧社会主義体制の解体、の三つが挙げられよう。再度の経済過熱・インフレ昂進とそれに伴って起こった社会的不正に対する国民の不満が天安門事件の一つの背景になっており、そこには中国の現在の「体制」に内包されている諸要因に根ざす問題があると考えられる

1984~90年の間の都市経済(全民所有・国営企業部門)の体制改革を振り返ってみると、実質的にあまり進歩がなかった。二度にわたり激しいインフレを経験したにもかかわらず、価格体系の本格的な合理化は実現されておらず、エネルギー・基礎資材や電力・運輸等の基礎サービスの供給不足は解消していない。企業制度に関しては、本来の「企業」の形成への道は依然として遠い。金融面では、企業投資のための資金供給の大部分が銀行貸出に代わったが、銀行の「企業化」はまだ進んでいない。中央政府と地方政府の権限配分は依然として安定しておらず、かつ不透明である。対外貿易や経済特区への外国企業の誘致はこの8年間に進んだが、対外経済取引は中央・地方政府のさまざまな直接的管理・規制のもとにあり、GATT(関税及び貿易に関する一般協定)加入は未だに実現していない。また天安門事件のため西側諸国から「経済制裁」を受けるという事態が生じ、その余波は今日に及んでいる。

中国は「四つの現代化」を国家政策の基本課題としてきたが、およそ「現代化」のためには、(1)合理的思考、(2)個人・団体の権利・義務の明確化、(3) 「人治」「党治」ではなく「法治」制度、といった事柄が満たされる必要があろう。しかし、現在の中国は、これらの点について「現代化」のための前提条件が満たされるには程遠いように思われる。

旧ソ連型社会主義や西欧先進諸国の私企業制市場経済と比較したとき、中国の現在の「体制」(regime)には内的整合性(consistency)の面で問題があるように思われる。生産手段の基本的部分を全人民所有・集団所有とすることと市場機構は十分両立しうると考えられるが、市場機構の円滑な機能のためには情報の自由な流通を認め、また企業・行政機関・司法機関を「人治」「党治」から解放して法治のもとにおくことが必要である。