東アジア地域における我が国企業の海外直接投資と貿易:業種別特徴の分析

執筆者 瓜生 不二夫/小石 雄一/篠原 徹郎
発行日/NO. 1991年5月  91-DOJ-27
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概要

東アジア地域への我が国企業の海外直接投資については、輸出生産基地的色彩が強く、ホスト国の輸出拡大、日本からの部品等の輸入をもたらし、その意味で貿易を促進するものであると理解されてきた。

しかし一方では、東アジア域内市場の拡大に伴い日系企業は販売先のウェイトを輸出から現地市場へとシフトさせ始めていないか、産業によっては当初から輸出代替として現地生産・販売を目的にしているものもあるのではないか等の疑問もあり、時代や産業の差異を無視して一律に日本企業の海外直接投資のパターンを規定することは単純過ぎるのではないかと思われる。

こうした問題意識から、東アジア地域に直接投資を行なっている主要業種の投資目的、販売、調達等のべターンについて分析すると、以下のような点が指摘できる。

①投資の目的については、単に低廉で豊富な労働力の活用を目的としたものではなく、ホスト国の輸入代替工業化戦略に沿って直接投資が行なわれてきたケース、当初、日本への持ち帰りが目的であったが、現地に進出した日系企業への販売が伸びたため投資が増加したケースなど多様である。

②製品の販売先も投資の目的の多様性に対応してパターンが分かれており、輸出、国内販売のどちらのウエイトが高いかは業種ごとに大きく異なる。日系企業の東アジア地域への投資がこの地域の輸出を伸長させたことは確かだが、それは必ずしも全ての産業が輸出志向が高いことを意味しない。実際、東アジア地域へ進出している日系企業は製品の60%強がホスト国国内向けであり、一般的な認識以上に国内販売比率は高い。また、これに加えて他のアジア諸国への輸出を含めると70%強が日本以外のアジア域内向けである。こうした傾向は、輸出比率が高い(特に本国向けの比率が高い)米国系企業と対照的である。

③部品等の調達についてみると、進出当初は日本からの調達が多かったが、近年は徐々にホスト国国内、東アジア域内での調達が増加しつつあり、域内調達の増加は域内分業の形成に一役かっている。

④日本企業の東アジア地域への直接投資については、業種別にみるとバラエティに富んでおり、また、時代によってもその性格が変化している。こうしたことから、一律に日本企業の海外直接投資の性格を規定することは適当でない。また、貿易に与える影響も、一律にホスト国の輸出を促進し、日本から部品等の輸入が増加する訳ではなく、業種、また時代によって貿易の方向性が異なることがわかる。