産業セクター別生産性動向:国際比較とその類型化

執筆者 中西 英夫/篠原 徹郎
発行日/NO. 1990年11月  90-DOJ-24
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概要

本稿は、「製造業離れ」といわれる現象を契機に製造業の将来に対して懸念が生じていることを踏まえて、製造業の役割を明確にするための第一歩として、国民経済を構成する主要な産業セクターの発展特性を、国際比較を通じて解明することを目的とする。

具体的には、日本、アメリカ、西ドイツ及びイギリスの4ヶ国について、国民経済を9産業セクターに分類して、実質付加価値労働生産性、就業者数及び実質国内総生産額の1970年から1987年(一部は1986年)までの時系列変化を観察し、国際的共通性を導き出し、類型化を行なった。

4ヶ国について1986年までの全産業の動向を観察すると、日本では労働生産性が約75%、生産額が約2倍とそれぞれ大きく伸びたが、西ドイツ及びイギリスでは労働生産性及び生産額とも30%から40%の伸びにとどまった。他方アメリカでは、生産性の伸びが15%以下であったにもかかわらず、生産額が58%の上昇を記録したのは4割近い就業者の増大によるところが大きい。産業セクターごとの動向で特徴的な点は、日本の製造業において就業者が微増にもかかわらず、生産性上昇は140%を超えた点が挙げられる。

また、アメリカにおける就業者の伸びのうち、対事業所サービスの2.2倍は4ヶ国の全産業を通じて最大であった。

日本、アメリカ及び西ドイツについて産業セクターの発展特性を比較検討したところ、鉱業と建設業を除くその他すべての産業について、時系列的発展動向に顕著な類似性が見られた点は興味深い。製造業については、各国とも60%以上という高い生産性上昇率を達成した点で共通しており、他のセクターと比較して、総じて経済成長に対する寄与度が大きいといえる。しかしながら、就業者数について日本とアメリカがほぼ横這いなのに対して、西ドイツが約2割の減少を示した点が異なる。また、対事業所サービスは3ヶ国とも就業者の増加による生産額の増大が著しく、特に日本とアメリカの就業者は2倍ないしはそれ以上となったのは、他のセクターとの比較で特徴的であった。

また、製造業は国際的に見て、高生産性構造調整型(TYPEIII)又は高生産性発展型(TYPEIV)に類型化されるので、国民経済が高い生産性を維持していく上で製造業の役割には無視できないものがある。更に、生産額の全産業に占める相対的に高いウエイトも考慮すると、生産性の向上を通じて国民所得の増大に果たす役割には引き続き大きいものがある といえよう。