技術摩擦の動向とその要因

執筆者 小石 雄一/石井 清彦
発行日/NO. 1990年11月  90-DOJ-23

概要

近年、ハイテク製品貿易及び海外との技術情報の交流の増加に伴い、日米間において、技術に関する紛争、いわゆる技術摩擦が増加している。

本稿では、技術摩擦について、その発生原因をサーベイするとともに既存の技術摩擦の実例について調査することにより、今後の動向を推測することを目的とする。

80年代の技術摩擦の特徴は、第一に、摩擦の発生する業種は電気機械工業が多く、特に、ME(マイクロエレクトロニクス)に関する紛争が多く発生していることである。第二に、争点となる制度等をみると、80年代前期においては、貿易関係法令に基づく米国への製品輸入の差し止めを狙った事例が多くみられたが、 その後、知的所有権関連法に基づいた特許制度に係る紛争が増加する傾向にある。第三に、摩擦の発生を事業段階でみると、市場投入段階に問題が発生するケースが増加する傾向にある。

技術摩擦の発生原因については、直接的には、各経済主体間の技術の水準・優位分野の差等の実態的原因や知的所有権制度の不備等の制度的原因によると考えられるが、これらの実態的・制度的原因は、現在の技術摩擦の拡大傾向を誘因するものではない。

技術摩擦の拡大を誘因するものは、むしろ技術問題をめぐる背景である。技術開発の大規模化・高度統合化、ハイテク製品貿易の活発化、技術開発の成果普及、経済のサービス化等の要因は、技術摩擦を増大させる大きな効果を有している。今後とも国家間の技術格差や技術の非対称性は、技術革新が続く限り存在するであろうし、技術の大規模化・高度統合化は技術の進歩に従い一層進展すると考えられる。さらに、国際貿易は今後とも益々拡大するとみられること等からこれらの背景要因は単に一時的な要因ではなく、今後とも継続していくと考えられる。このため、技術摩擦は拡大傾向にあると考えられる。

将来において、国際摩擦を可能な限り縮小し、世界経済の発展を円滑化するためには、摩擦に係る直接的な原因を除去すること、特に技術に係る制度である知的所有権の制度の整備を図ることが有効である。

この観点から、現在、WIPO (世界知的所有権機関)やGATTウルグアイラウンドの場において、知的所有権制度の国際的な調和・整備を目指したルール作りが検討されていることは、非常に効果的な試みであり、今後とも積極的に推進してゆくことが必要であると考えられる。