日本の対外直接投資

執筆者 小宮 隆太郎/若杉 隆平
発行日/NO. 1990年5月  90-DOJ-16
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概要

日本の対外直接投資は第二次大戦後から現在までの問いくつかの段階を経て拡大をしてきた。1950年代から僅かな規模で行なわれてきた投資は、規制緩和、経常収支黒字の増大、変動相場制移行などが起きた1970年代初頭に急増した。この時期に実質的に日本の対外直接投資が開始された。ただし、業種は資源開発のための鉱業分野、輸出拡大のための商業分野、労働集約的な一部の製造業に限られており、投資先は開発途上国が中心であった。1980年代にはいると、金融分野での世界的な規制緩和、先進国間での貿易障壁の増加により、金融業や製造業分野の投資が増加し、投資先は先進国ヘシフトした。1980年代後半には大幅な円高を契機に、日本の対外直接投資は過去のどの時期よりも急激な増大を示し、日本は世界の中でトップクラスの投資国となった。先進諸国、アジア地域に対して、資源開発関連投資を除くほとんどの産業分野への直接投資が拡大したが、金融・保険業、不動産業への投資が余りにも急増したため、製造業の相対的比率は低下した。こうした日本の対外直接投資には、大企業だけでなく中小企業も活発に参加した。

日本の対外直接投資は始まってから約20年しか経過していないため、日系現地法人の生産規模、収益率はまだ小さく、販売先では投資先地域への販売比率が高い。現地法人はまだ、投資先地域でのローカルな企業にとどまっており、本社に収益をもたらすほどの事業活動を行なっていない。世界的規模で事業活動を行なっている他の先進国の多国籍企業とはまだ格差がある。しかし、最近ではかなりに数の日本企業が本格的な国際的事業活動を展開しつつあり、今後本格的に「多国籍化」してゆくものと予想される。