企業レベルの労使関係:その国際比較

執筆者 小池 和男
発行日/NO. 1989年1月  89-DOJ-6
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概要

日本は企業別組合であり、その労使関係は特異といわれる。本当であろうか。おもにアメリカと西ドイツと比較し、どこまで他国と共通し、どこで異なるかを吟味する。 そのうえで、将来どのような労使関係が主流となるかを考えたい。

労働組合の組織と機能を、たんに表向きのものに限らず、その内実まで視野にいれるならば、まことに見事な共通性が見いだされる。ただし、資料は乏しく、おもにわたくし自身の見聞に頼らざるをえない。まず組織については、産業別組合の基礎に、ほとんどかならず企業や事業所ごとの労働者組織がある。機能面でも、賃金のより高い仕事への昇進、別の種類の仕事への配転、解雇、そしてひとりひとり、あるいは、仕事ごとの賃金、こうした職場の労働者にとって大切なことは、おおく企業や事業所レベルで交渉される、という共通性である。

この大きな共通性のうえに、もちろん差異がある。企業や事業所レベルの組織に着目すれば、つぎの3つのサブタイプにわかれる。

A 正規の組合組織が事業所ごとに存在しているアメリカと日本。正規とは組合費を徴収できるということである。
B 法律上労働組合ではないが、経営参加の法律にもとずく事業所従業員組織があり、機能からみても事実上の労働組合というべき西ドイツ。
C 日陰の労働組合組織が事業所ごとに存在し機能しているイギリス。

機能面では、経済の伸びと縮小という変動への対応に注目すれば、日本の労使関係がもっとも成長に貢献しやすい。職場の技能をよくのばしやすい仕組みをつくっている。他面、雇用の縮小にもっともつたない。コストのたかい労働者に解雇をしわよせする。アメリカは逆に、技能をのばす面では劣るが、動続の逆順による解雇方式をとっており、コストのひくい人に解雇を集中している。ドイツは、その中間であろうか。

共通性をうみだしたのは、私の考えでは、現代の技能の性質である。企業のなかで実地に経験をつんで、技能を多少とも高めていく形成方式がとられている。それならば、働くひとにとって重要な事項の多くは、企業や事業所レベルで交渉されるほかない。

差異の根拠は、その方式のていどの違いである。技能形成方式の実態はなかなか分からないが、賃金の上がり方からみて、ドイツや西欧はその程度がもっとも小さく、アメリカは企業内でながく技能が高まっていく方式をとっている。日本は、もっともそのていどが大きく、企業内の経験がはば広く、深く、経済の効率の源泉、異常と変化への対処にすぐれた知的熟練を形成している。

将来、電子化、三次産業化がすすめば、こうした知的熟練への必要がいっそうたかまる。くりかえし作業や規格化された作業ほど機械によってなされ、人間の手には異常と変化への対応が、ますます残されていくであろう。そうであれば、知的熟練をのばそうとする労使関係こそ、将来の主流となっていくであろう。