やさしい経済学―環境と向き合う 生物多様性を守る

第6回 新国富指標の活用を

馬奈木 俊介
ファカルティフェロー

生態系には様々な価値があります。自然資本と、生産の手段となる資本の考え方を生態系など自然に拡張したものです。自然ストック(山や森林、海、川、大気、土壌)や生態系を構成する生物も含みます。自然資本から生じる有益な機能を生態系サービスと呼び、経済的価値は年平均24兆米ドルとの推計もあります。

国連の「新国富に関する報告書2014」が示した新国富指標では、自然資本は人類が作り出した機械やインフラなどの人工資本、労働や人口・教育・技能などの人的資本とともに将来の富を生み出す成長の源です。日本の1人あたり自然資本は過去20年で8.4%減りました。30%減の世界平均より良いのですが、日本の人工資本は47.1%増、人的資本は7.7%増です。今後さらに自然資本を高める必要があります。

新国富の推計は政策評価にも役立ちます。例えば石油・鉱物の掘削を考えます。得られた収入でダムを造る政策と学校を造る政策があるとして、国内総生産(GDP)への効果が同じだとします。

ダムを造る政策では、人工資本は増えますが生態系に被害を与えるために自然資本は減ります。学校を造る場合は教育投資により技能レベルが上がり人的資本が増えます。この場合、2つの政策の新国富への影響が同じとは限りません。そもそも資源掘削自体が自然に悪影響を与え自然資本を下げます。GDPだけでは政策評価を見誤る場合に新国富指標は活用できます。人工資本のように金銭的に見えやすかったもの以外も、経済という軸で評価でき、政策評価が分かりやすくなります。

2015年3月12日 日本経済新聞「やさしい経済学―環境と向き合う 生物多様性を守る」に掲載

2015年3月24日掲載