やさしい経済学―環境と向き合う 生物多様性を守る

第5回 捕鯨従事者に補償基金

馬奈木 俊介
ファカルティフェロー

クジラは、かつて燃料などになる鯨油を取るため、多くの国で競って捕鯨していました。しかし他の燃料油などが出てくると積極的な捕鯨理由がなくなりました。今は、動物福祉の面から捕鯨に反対する国もあります。

捕鯨は必要だと主張するのが日本です。クジラは人間が捕る以上に魚を食べ、海洋資源の確保のため一定の頭数の管理は必要との立場です。以前はマッコウクジラなど一部のクジラはかなり減っていましたが、現在は種によっては頭数も多く、捕鯨は日本の文化だという認識も多くの人にあります。

日本は年7億~10億円程度の補助金を出して捕鯨し、特性や資源数を科学的に調べる調査捕鯨を続けています。オーストラリアが国際司法裁判所に提訴した日本の南極海調査捕鯨問題は2014年3月に判決が出て、日本の主張に疑いが向けられました。海で動き回る個体数の把握は難しく、今後分かることは限られます。殺さずに調べる方法も取っていますが、さらに限られた知見しか得られません。

ただ捕獲量を減らすための罰則は交渉に時間がかかり、今後数年で日本に罰則が科される可能性は小さいでしょう。むしろ海外の反捕鯨団体による日本への妨害活動が問題です。大きな事故が起こる可能性さえあります。

解決策として日本で調査捕鯨を生活の糧にしている人への補償基金を作る方法があります。いま世界中でホエールウオッチングが盛んで、豪州では年間460億円を売り上げています。そこで、例えばホエールウオッチングの参加者から1人500円の追加料金を徴収し、日本に支払うのです。捕鯨船の更新予算は高額で、日本で調査捕鯨の継続は難しい面もあります。これを機に基金を創設することも選択肢の1つでしょう。

クジラが魚を食べすぎて人が食べる機会を奪っていることは事実で、クジラの個体数管理は必要です。ただ漁業資源の安定的な確保には捕鯨とは別の施策が求められます。

2015年3月11日 日本経済新聞「やさしい経済学―環境と向き合う 生物多様性を守る」に掲載

2015年3月24日掲載