やさしい経済学―環境と向き合う 生物多様性を守る

第4回 景観や地価にも影響

馬奈木 俊介
ファカルティフェロー

創造的な仕事や歴史的な文化財など、魅力的なものは都市が大きいほど多い傾向があります。大都市の中で様々なコミュニティーがあり、互いに刺激を与え生活することがイノベーション(技術革新)を生み出す原動力となります。そのため通常は都市への人口流出は止まりません。

人口集中が進み、現在、世界の半数は都市に住んでいます。住宅を探す際に大事なのは快適な住環境です。交通アクセスの便利さを追求する人は都市中心部の超高層ビルに住み、緑など自然を求める人は河原や公園の近くに住みます。重要なのは都市化を妨げる政策でなく、都市化のための社会的インフラを整備し住み心地を向上させることです。

都市から離れた地域に行かないと自然が豊かにならないわけではなく、世界の主要な大都市には自然豊かな公園もあります。世界の大都市の多くはかつて河川の水が洪水で氾濫する平野でした。水が得やすい上に緑もあり、豊かな生態系に囲まれて人々は生活していたのです。

自然のある良い景観が地域の価値を上げます。地価の決定要因を分析すると、環境面で優れていることは地価の上昇、そして地域の価値を上げる要因になります。大都市でも景観の多様性を踏まえ、地域の生物多様性が重視されるようになりました。ロンドンでは「ロンドン生物多様性パートナーシップ」を策定し、生物多様性に富む地域づくりを進めています。樹林や湿地を整備し多様な動植物が生息し、心地よいレクリエーションの場を提供し、洪水の際に市街地を守れる遊水池や調節池を造り出しています。

大都市だけでなく、あらゆる都市で生態系は重要です。動物も地価に影響を及ぼします。オーストラリアではコアラが隣接して住む地域は地価が高く、コウモリが近くにいる住宅はフンの影響から地価が低いのです。動植物の生態系は地域の景観に影響を与え、地価と地域そのものの価値にも影響を与えるのです。

2015年3月10日 日本経済新聞「やさしい経済学―環境と向き合う 生物多様性を守る」に掲載

2015年3月24日掲載