国連はワシントン条約で絶滅の恐れのある野生動植物の過度な国際取引を防ぎ、動植物の種を保護しています。
この条約には170力国以上が加盟していますが、国際取引のみが対象です。国内取引は国内法(日本では種の保全法)に準じます。条約の取引制限対象になると輸出入や持ち込みはもちろん、動植物を使った製品も許可が必要になったり、禁止されたりします。
絶滅の恐れがある種としてアフリカゾウなどが指定されています。ゾウは先史時代から狩りの対象で、古くは食用としても重視されていましたが、近代の最大の捕獲理由は象牙でした。象牙に代わる地元住民の雇用やゾウ保護のための資金作りとして多くの国の自然公園ではゾウを観光対象として扱っています。日本で現在流通している象牙は輸入禁止以前の在庫です。
象牙製品は主に彫刻品やアクセサリーなど保存が利くものです。ゾウの減少で象牙製品の価値は上昇し、密猟や象牙の密輸を促します。非合法なブラックマーケットや偽の取引許可証を用いるインセンティブ(誘因)が増えるのです。記録のある1989~2006年だけでも押収された量は毎年少なくとも世界で約10トンに上ります。
取引の許可はゾウの大量虐殺につながるとされ、反対の意見や活動は多くあります。1900年に取引禁止しても、なお大量密猟が続きました。その後、ゾウの生息数が最も多いボツワナなどが国際的合意を得た上で取引を開始し、現在その評価が行われています。これまで分かっているのは、象牙の合法な国際取引禁止より、合法な国際取引の方がゾウの保護に役立ったということです。
重要なのはゾウがワシントン条約の制限対象リストに入るかどうかより、野生動植物の各国の管理体制です。モニタリングなどの制度が整っていなければ国際取引を認めることは望ましくありません。国内制度の完備をどの程度まで求めるかが重要です。
2015年3月9日 日本経済新聞「やさしい経済学―環境と向き合う 生物多様性を守る」に掲載