やさしい経済学―環境と向き合う 生物多様性を守る

第2回 提供国への利益が課題

馬奈木 俊介
ファカルティフェロー

経済的に有用な遺伝を持つ植物や動物を遺伝資源といいます。食品や医薬品の研究開発に使う種苗や微生物などが対象となりますが、利益の一部を遺伝資源提供者にも配分することが重要です。

生物多様性条約は利益配分について公正・公平を求める原則を定めています。2014年には、資源提供国の事前同意など配分原則を守るための措置を定めた名古屋議定書が発効しました。食糧安全保障上、重要な植物遺伝資源については、食料・農業植物遺伝資源条約で配分利益をプールする基金設立などの多数国間の制度を決めています。

豊富な遺伝資源は生物多様性の豊かさを意味しますが、資源利用の技術水準が高くない国もあります。ブラジル、インド、南アフリカなどです。一方、高い技術で資源を利用する日本やドイツ、フランス、英国には資源がありません。資源国が資源を提供し、利用国の技術を提供するなどして利益配分されます。

ただ途上国は自分たちの遺伝資源が先進国に渡った後、その利益が独占されていると主張し、規制強化や利益配分対象の拡張を求め、先進国企業は莫大な投資費用に対する途上国の理解を求めます。

いま、バイオプロスペクティングと呼ぶ遺伝資源発掘事業が注目されています。資源国と利用国が共同で、自然界から生物を採取して遺伝資源を探し、医薬品や農作物を改良します。国際条約での交渉や非政府組織(NGO)の反対など乗り越えるべき困難は多いのですが、それを上回る開発メリットがあるかどうかが問題です。

製薬会社に関する便益計算では、遺伝資源の多寡により生物の採取面積1ヘクタールあたり2000~92万円と大きな差があります。生物多様性が豊かな地域なら92万円となり開発メリットがありますが、多様性に乏しい地域だと2000円となり、開発する価値はあまりないでしょう。資源国は遺伝資源を適切に管理し、生物多様性と資源提供の利益のバランスを取ることが重要です。

2015年3月6日 日本経済新聞「やさしい経済学―環境と向き合う 生物多様性を守る」に掲載

2015年3月24日掲載