地域金融、競争重視に

植村 修一
RIETI上席研究員

金融庁が示した「金融改革プログラム」は、地域金融における競争促進の視点が不十分である。地域リスクや利用者利便を考慮すれば、行政が「地域密着型」など特定のビジネスモデルを推奨するのではなく、地域金融機関が自らのモデルを追求できるような競争環境が必要である。

関係型取引強化経営者に戸惑い

金融庁は昨年末、今年3月で終わる「金融再生プログラム」の後継となる「金融改革プログラム」を公表した。本稿ではこの両方を踏まえ、地域金融に関する問題提起を試みたい。

金融庁が2002年秋に打ち出した金融再生プログラムにおいて、大手銀行は不良債券比率の半減という数値目標を課せられ、いや応なく不良債権の最終処理を迫られた。一方、地方銀行以下の業態は、そうした目標を課されることはなく、代わりにリレーションシップバンキング(長期にわたる関係型取引)の機能強化が求められた。

この方針が打ち出された当初、地域金融機関の経営者の間では戸惑いがあった。それは、リレーションシップバンキングという耳慣れない用語が意味するのは、それまで地域金融機関が行ってきたビジネスモデルそのものであり、これを強化するとは具体的に何なのか不明だったからである。さらに言えば、地域経済が疲弊する下で、それまで採ってきたリレーションシップバンキング路線が息詰まった結果が、地域金融機関経営の苦境ではないかという思いがあった。

リレーションシップバンキングの概念そのものは、大手行と大企業の間にも存在し、地域金融機関に特有なものではない。長期にわたる継続的な取引が、貸し手と借り手の間の情報の非対称性を緩和し、取引費用の削減に結びつく半面、モラルハザード(倫理の欠如)やホールドアップ問題(貸し手が一方的に有利になる関係)をもたらす可能性があることなどが、情報の経済学の研究により指摘されている。

地域からの退出が容易でない地方銀行や信用金庫では、こうしたリレーションシップバンキングの性格がより強く出るだけでなく、経営上、地域社会そのものが重要なステークホルダーになっている点で、大手行にはないガバナンスの特性がある。「地域とともに生きる」は、地域金融機関に共通のキャッチフレーズである。半面、地元の企業に依存する融資は地域経済と一蓮托生のリスクを抱える。また、第三セクターの破たん処理を巡る自治体との対立で明らかなように、地域貢献という観点からの融資も困難になりつつある。

地元の評判を気にしつつも、いかに経営の足かせとなっている問題から手を引くかは、地域金融機関が抱える課題の1つとなっている。それでも、多くの金融機関は、地域とともに生きる路線を堅持しようとしている。しかし、業態や地域の特性を問わず、どの金融機関も一律に地元密着でよいのか、地域リスクという観点から見直す余地があろう。

すみ分け通じ利益の確保も

現行のアクションプログラムの下で、事業再生の取り組みなどかなりの前進をみたことは評価すべきである。だが、リレーションシップバンキングに焦点を当てすぎた結果、そもそも地域経済や地域金融機関経営にいかなる特性やリスクがあるのか、十分な詰めのないまま個々の取り組みだけが進められてきた感がある。

地域金融を巡るさらに重要な論点は、視点を利用者の側においた時、既存の金融機関のみによるサービスの提供で十分にそのニーズが満たされるのかという点である。

地域とのリレーションシップが望ましい機能を発揮し、リスクの適切な把握が新しい企業や事業の円滑なスタートアップにつながっていればよいが、逆に、金融機関の審査能力の摩耗や取引先への配慮が、新規参入に不利に働いていることはないだろうか。固定的な取引による金利設定が、借り手の信用度アップにより本来企業が得られるべき利益の喪失をもたらしてはいないだろうか。

金融再生プログラムでも、いわゆる「目利き」の育成による創業・新事業支援機能の強化などがうたわれたが、需要者側のニーズを満たす上で最適なのは供給者間の競争であるというのが市場経済の原則である。だとすれば、地域金融の世界においても、金融機関間での、あるいは異業種の参入も含めた競争環境の維持について、一定の配慮が必要である。

この点、気にかかるのがいわゆるオーバーバンキングの議論である。経済規模対比で金融機関数が多い県について、オーバーバンキングが話題にされることがあるが、オーバーバンキングの定義は必ずしも明らかでない。過剰かどうかが単に数だけの問題でないことは、多くの中小専門店と大手スーパーが同一場所で共存できる小売業の例でわかる。金融業でも規模の経済のみで利益は決まらない。

最近、東京で新銀行設立の動きがみられるが、利用者の側に立てば、東京の市場は相当競争的であり、むしろ地方こそ非競争的で問題であると言えなくもない。

ちなみに、最近の実証研究によると、利潤最大化の条件という観点からみた競争度の比較では、地方銀行間の競争は都市銀行間の競争に比べ長期にわたり穏やかである。また、県別にみた信用金庫の貸出市場は、借り手の質を調製しても、統計的に有意な差でもって分断されており、東京など大都市部近辺の金利が低くなっている。これらの結果は我々の直感とも合うものであり、地方の金融では、すみ分けによる利益確保(エントレンチメント)が行われている可能性がある。

金融行政の姿勢に疑問

以上に述べた2つの論点を踏まえ、あらためて今回の金融改革プログラムを見てみる。地域金融については、「地域の再生・活性化、中小企業金融の円滑化」と「中小・地域金融機関の経営力強化」の2項目に分かれているが、内容はほぼ金融再生プログラムの承継である。前者における理念として、「地域密着型金融の一層の推進」が掲げられ、各金融機関には「選択と集中」により新たな計画を推進することが求められているが、文字通りに受け取れば、バブル崩壊後、地方銀行などで見られる地元での引きこもり現象にされに拍車をかける恐れがある。

一方で、後者の項目の中に、「業務の多様化や新規参入を促し、健全な競争の促進を図る」との文言があるが、金融庁が同時に公表した「金融改革プログラムのポイント」ではこれが抜け落ちており、どの程度競争促進に当局が前向きなのか不明である。むしろ、健全行にも公的資金による資本注入を可能とした法制が整備されたことから、合併などによる金融機関の整理により積極的ではないかというのが、一般的な見方である。

地域リスクの存在と、利用者利便の向上という2つの論点を考えると、必要なのは、行政による特定のビジネスモデルの推奨ではない。新規参入を含め、金融サービスを提供する主体に対し、業態や地域にこだわらない多様性あるビジネスモデルの中から自らのモデルを追求・選択する機会を提供することと、これを促すための競争環境の維持である。

例えば、リレーションシップバンキングと異なり、定量的データをもとに個々の取引を迅速に行っていくトランザクションバンキングというビジネスモデルがある。中小企業に関する財務データベースが充実すれば、金融機関が従来の地域を抜け出て、広範囲でこのビジネスに特化することも可能になる。金融機関が行わなくても、ノンバンクが地方の中小企業金融に広く進出することが考えられる。

その対局として、狭く顔が見える範囲内でのコミュニティファイナンスに特化する新たな共同組織型金融機関が誕生してもよい。地域の活性化とは、金融に限らず多くの政策分野で言われることであるが、新陳代謝なくして活性化がないのは、経済も同じである。

今後、地域経済社会は大きな変容を迫られる。国・中央から地方への所得移転にはもはや期待し難い。市町村合併の推進により従来の行政の枠組みも崩れつつある。一方、企業活動では、国境の概念はますます薄まりつつある。こうした中、従来の枠組みを超えた発想で金融を考えていく必要があり、金融機関経営者も、将来の地域社会を展望しつつ、競争の中で独自の戦略を練っていくことが求められる。

2005年1月20日 日本経済新聞「経済教室」に掲載

2005年1月31日掲載

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