Start Up 中小製造業のIoT

第7回 中小企業への円滑なIoT導入を促す対策② -世界のレポートの提言から-

波多野 文
リサーチアシスタント

岩本 晃一
上席研究員

円滑なIoT導入を促す対策として、今回は、人材管理や雇用、教育に関連する対策を紹介する。これら、労働者の働き方に関する対策は、WEFレポート、ドイツ連邦政府労働・社会政策省の白書、ボストン・コンサルティング・レポートなど、複数のレポートで言及されており、重要度は高い。ここでは、①人事機能のデジタル化、②多様な人材・働き方への対応、③教育への対策に分けて紹介する。

① 人事機能のデジタル化

人材管理のデジタル化とは、人材管理や評価をデジタル化し、より効率的な人材管理や労働計画の実現を目指すべきだという提案である。今後、労働の自動化・機械化により、コンピュータ・数理関係や建築・工学関係の人材は需要が高まるが、このような専門職の人材は高等教育が必須であるため、需要に対して供給が間に合わずに人材獲得競争は激化する。

これまでの人材評価手法や管理手法にデータ分析を取り入れ、供給される人材の傾向と企業が求めるスキルのギャップを正確に把握できる分析ツールを構築し、イノベーションや人材管理戦略につなげる必要がある。

② 多様な人材・働き方への対応

人材不足に対応するには、多様な労働力の受入が必要である。人材管理のデータ化は、このような多様性への対処にも応用できる。データを用いた人事評価を行うことで、性別、年齢、人種、性的嗜好等に対して無意識に持つ偏見を除外した採用や評価が可能になる。

また、流動的な勤務形態や外部の人材プラットフォームを活用することも、人材不足への対策になる。インターネット技術を利用した遠隔での業務管理を活用し、労働者の働き方の選択肢を広げる試みが必要である。ただし、勤務形態の流動化は、仕事とプライベートの境界を曖昧にし、結果としてオーバーワークにつながるという懸念もある。雇用者と労働者が労働時間や場所についてしっかりと議論できるようにする環境を整える必要がある。

③ 教育への対策

教育への対策として重視されているのは、現在業務に従事している労働者に対する再教育である。IoTを導入することで、労働者を取り巻く労働環境は大なり小なり変化する。それゆえ、新たに導入された機械を管理したり、意思決定を伴うより困難な仕事を行ったりするなど、労働者に必要とされるスキルも変化する。

モバイルコンピューターやオンライン上のリソースを利用する上で必須の知識(デジタルリテラシー)をはじめとする基礎的スキルの習得と、より実践的な場面で役立つ能力を身につけるための再教育が必要となる。ここでも、拡張現実などの最新技術を応用することで、効率的な学習が可能になる。

以上、2回に渡ってIoT導入にむけた対策に関する提言を紹介した。人口減少が避けられない中、中小企業にとって最新技術や新たな働き方への対処は今後の生産性向上には欠かせない。

2017年9月10日 日本物流新聞「Start Up 中小製造業のIoT」に掲載

2017年12月19日掲載