Start Up 中小製造業のIoT

第6回 中小企業への円滑なIoT導入を促す対策① -世界のレポートの提言から-

波多野 文
リサーチアシスタント

岩本 晃一
上席研究員

中小企業にIoTを円滑に導入するには、そもそも導入の過程にどのようなハードルがあり、何に留意すべきかを明確化させておくことが重要である。IoTへの対策については、これまでに報告された様々な世界のレポートでいくつかの指摘がなされている。今回は、事業の枠組みに関連する対策について、2016年に出されたマッキンゼー・レポートで提案されている対策を紹介する。

マッキンゼー・レポートは、IoTの導入状況や導入障壁について、IoTの恩恵を最大限享受するための対策を5つのポイントに整理して提案している(図表)。

図表:マッキンゼー・レポートが提唱する円滑なIoT導入のポイント
① 導入対象の絞込
② IT基盤固め
③ アウトソーシングできる事業の明確化
④ 専門チームの設置
⑤ 新たなビジネスモデルの模索

① 導入対象の絞込

一口にIoTといっても、仕入れから生産、労務管理など、導入対象は多岐にわたる。自社がすでに保持するデータや価値の流れを分析し、状況に応じてどこにIoTを導入するか、焦点を絞った計画を立てる必要がある。

② IT基盤固め

IoT導入に成功する中小企業は、データの欠陥、システム不具合といったいくつかの困難を乗り越えてプロジェクトを完結させている。膨大な紙データのデジタル化や、データ収集、保存に対する投資は正当化が難しいが、このような投資は将来IoTを試験的なレベルから実用レベルにするためには欠かせないものである。さらに、デバイスや顧客に関連するデータを管理するための土台作りも必要になる。

③ アウトソーシングできる事業の明確化

自社ならではの強みと、他社に任せても良いデータは何かを把握し、任せられる部分はIoTソリューションを提供する第三者に委託する。例えば、シーメンスは2017年4月より、産業用オープンクラウドオペレーションシステムである「MindSphere(マインドスフィア)」の提供を開始した。このシステムでは、生産データを記録・分析することで、工場の効率を改善することができる。また、システムを拡張して独自のアプリ開発に繋げることが可能である。NECでは、IoTシステムを導入・管理運営するためのプラットフォーム(NEC the WISE IoT Platform)を提供している。三菱電機でも、製造業向けに生産現場とITシステムを繋げるプラットフォームを提供している。これらのような、すでに存在するソリューションを上手く利用することで、導入にかかる時間を節約できる。ただし、データ所有権の確保には注意が必要である。契約締結の前に、IoT事業において自社がアクセスすべきデータを把握しておかねばならない。

④ 専門チームの設置

IoTを導入し、運用するには、自社の内部にIoTを扱うことのできるチームが必要である。ITに強いデータサイエンティストなどがいると望ましい。また、ビジネスの専門家、オペレーションの専門家など、他部門と緊密に共同して動くことで、IoTに関する戦略を明確化し、実行することが可能となる。

⑤ 新たなビジネスモデルの模索

IoTは単にオペレーションを効率化するだけでなく、収集したデータを利用して新たなサービスを提供することにも貢献する。この先のマーケットの変容を見越したビジネスモデルの構築が必要である。

2017年8月25日 日本物流新聞「Start Up 中小製造業のIoT」に掲載

2017年12月19日掲載