アウトソーシングで活性化

中西 穂高
RIETI上席研究員

地方にとって大変な時代になっている。三位一体の改革を契機に、多くの自治体が経営危機にひんしている。財政再建団体となった北海道夕張市のような事態は、どの自治体にとっても他人事ではない。

大都市に流出

行政改革の推進は緊急かつ重要な課題であり、歳出削減、給与カットとともに事務事業のアウトソーシング(民間委託)が多くの自治体で進められている。従来は給食や庁舎の警備などのいわゆる現業や情報システムの運営など限られた分野で行われていたアウトソーシングが、近年は行政事務全般に広がっている。

ところが地方圏の自治体では、そうした業務のアウトソーシング先を地元で見つけることが難しい。結果として大都市の企業にアウトソーシングをすることになる。これではアウトソーシングを進めると資金が地方から大都市に流出し、低迷を続けている地方の経済は一層冷え込んでしまう。行政改革は進めたいが地域の経済も心配、地方自治体はそんなジレンマに直面している。

そうした中、高知県では一味違うアウトソーシングを進めている。

地域活性化と行政改革を同時に達成しようという欲張ったアウトソーシングだ。高知県が進めているアウトソーシングは、地域の活性化をその目的の第一に掲げている。他の自治体が進めているコスト削減を目的とするアウトソーシングとは異なり、アウトソーシングの受け皿となる地場の企業やNPO(民間非営利団体)の育成を積極的に行っている。

事前に業務説明会を実施し、県庁がどのような仕事を行っているか、そのコスト構造は、ということを外部に公開する。民間から、自社ならこの仕事はこのように工夫をしてより効率的にできる、という提案をもらう仕掛けだ。そうしたプロセスの中で、県庁職員も自分たちの仕事をもう一度見直す機会をもち、県庁の仕事が外部に開かれた存在となる。

そこから新たな官民の協働も生まれる。高知県のアウトソーシングは、コスト削減だけでなく地域活性化や官民協働など、二兎も三兎も追う取り組みとなっているのである。

SOHOへ発注

さらにユニークなのは「地域版アウトソーシング」という取り組みだ。これまで県庁職員が行ってきたデータ入力やテープ起こしなどの比較的小さな仕事を、テレワークを活用して県内のSOHO(スモールオフィス・ホームオフィス)のグループなどにアウトソーシングする。

07年度には54の業務がアウトソーシングされた。ここでも受け皿育成がポイントで、県庁から仕事を出しながらSOHOグループを育てている。

この地域版アウトソーシングにより、これまで現金収入の機会がほとんどなかった中山間地域の主婦が、自宅で仕事ができるようになった。仕事を通じて社会とのかかわりを持ち、地域を見つめ直すきっかけにもなった。グループの中には、県庁からの仕事を行うだけでなく、地域の他のグループも巻き込みながら地域の特産品の開発や販売に取り組むところも出てきている。地域版アウトソーシングをきっかけに県内各地で地域活性化の担い手が育ち始めている。

アウトソーシングによる地域活性化という新しいモデルは、全国どこでも展開可能なだけに注目を集めている。地方にとって厳しい状況が続く今、このモデルが地方の元気を取り戻すきっかけになることを期待したい。

2008年6月19日付 フジ・サンケイ・ビジネスアイに掲載

2008年6月20日掲載

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