食の変化と現金回避鮮明 データでみるコロナ下の消費

小西 葉子
上席研究員

2020年、私たちの生活は大きく変化した。特に3月以降、新型コロナウイルスの感染拡大とそれに伴う政府の休校、在宅勤務、外出自粛要請、4月の緊急事態宣言を経て5月には「新しい生活様式」の実践が励行され、私たちの購買行動にも大きな変化が起きた。

経済産業省は19年11月、インテージ(東京・千代田)とジーエフケー マーケティングサービス ジャパン(東京・中野)のPOS(販売時点情報管理)データを用いた小売販売額指標を開発した。毎週金曜日に週次の販売動向の最新データを公表している。これによりコロナ禍での購買行動の変化をリアルタイムで把握することが可能となった。以下では同データに基づく筆者らの分析を紹介する。

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第1に感染予防品は、世界保健機関(WHO)が20年1月30日に世界的緊急事態を宣言した週に、マスクが前年同週の販売額の約7倍、手指消毒剤が約10倍に急増した。その反動で全国的に感染予防品が市場から消えたため、政府は民間企業に補助金を出して安定供給を目指すとともに、転売禁止の措置をとった。5月の大型連休明けには市場に感染予防品が戻ってきた。

緊急事態宣言期間を経て7月中旬までの新規感染者数が抑えられた期間も前年を大きく上回る購入が続いた。感染者数が急増した第2波では、マスクは8月第1週に前年同週比約19倍、手指消毒剤は第2週に約22倍と20年で最も伸びが高くなった。この1年、感染者数の多寡にかかわらず購入が続いている。

第2にパソコンや関連商品の販売増が示すように、在宅勤務やオンライン会議の普及が観察された。主食・加工食品・調味料の継続的な販売増により自宅での食事や自炊が増えたこと、一年を通じた化粧品の販売減により外出自粛とマスク着用が進んだことも改めて浮き彫りとなった。

POSデータと販売額指標により、リアルタイムでの実店舗販売の把握が可能となった。さらに1年を経て、全容を把握するために知りたいことが出てきた。例えばオンライン消費やサービス消費の実態把握、キャッシュレス決済の普及、レジ袋の辞退率などだ。以下では、2度の緊急事態宣言下で自粛の対象となった「食」の変化とキャッシュレス決済の普及についてみていきたい。

図1をみると、コロナ禍の下で前年より販売増となったのはスーパーマーケットの食品販売額だけだ。食品は生活必需品なので、通常各月の販売額は安定している。13~19年の84カ月のうち、前年同月比で5%以上増えたのは5カ月、5%以上減ったのは2カ月のみで、増減率が10%を超えた月はなかった。一方、コロナ禍の下では2月から5月まで10%以上増えており、緊急事態宣言時の4月は約18%増でピークとなった。

図1:食生活の変化の状況

これがどれほどのインパクトなのかみてみよう。

気象庁は19年10月の第2週、大型で非常に強い台風19号が土曜日の夕方かそれ以降に関東地方に上陸し、東北地方を通過すると予測した。関東地域の鉄道やスーパーマーケットは休業もしくは時短営業の計画を発表した。これにより関東地方のスーパーマーケットの第2週の食品の販売額は前年同週比で約20%増となった。だが台風通過後はすぐに元に戻り、月集計では前年同月比は8%増だった。つまり全国集計の月次データで前年同月比増加率が10%を超えるということは、全国的にほぼ毎週、台風に備えた買いだめ以上の買い物をしているといえる。

一方、飲食サービスはコロナ禍の下で飲み会、カフェ、朝ご飯、昼ご飯、晩ご飯への支出額が前年同月比で減り続けている。個人向けオンライン家計簿サービスを運営するZaim(東京・港)の家計簿アプリのデータは、POSデータでは捕捉できないサービス消費の実態を把握できる。飲み会とカフェは飲食店での支出ととらえられるが、朝ご飯、昼ご飯、晩ご飯は飲食店での支出に加え、小売店で購入した総菜、パン、おにぎり、弁当などを自宅で食べる中食支出も含む。

期間中に最も影響を受けたのは飲み会で、緊急事態宣言発令直後の4月には支出額が前年の約1割に落ち込んだ。晩ご飯とカフェもほぼ半減となった。緊急事態宣言後は、各飲食サービスともマイナス幅が縮小していたが、昼ご飯と飲み会は第2波の感染者数がピークとなった8月に悪化し、その後Go To Eatキャンペーン期間は他のサービスと同様に改善の兆しがみられた。

しかし第3波の感染者数拡大により飲食サービスへの支出減は続き、2度目の緊急事態宣言が発令された21年1月には、カフェは前年の約8割、朝ご飯と昼ご飯は約4分の3、晩ご飯は約3分の2、飲み会は約4分の1の支出額だった。私たちの食べる回数が減っているというよりは、外食の機会が減っているのだ。POSデータと家計簿アプリのデータを組み合わせることで、自炊と中食支出の増加、外食サービスへの支出の減少を観察できた。

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コロナ禍の下では感染予防のため、入店前の検温や手指消毒など買い物の仕方も変化した。支払時にも金銭授受による従業員、消費者の感染防止のためのキャッシュレス決済が進んだ。

図2では、Zaimのデータを用いてコンビニエンスストアの15年1月と21年2月のキャッシュレス決済比率を比較している。

図2:コンビニエンスストアにおける非接触決済の増加

経産省の「商業動態統計」によると、コンビニエンスストアの20年の市場規模は11.6兆円で、スーパーマーケット(14.8兆円)に次ぐ規模だ。日本フランチャイズチェーン協会の「コンビニエンスストア統計調査」の同年結果によると、全店ベースの年間来店客数は約159億人と、決済回数が非常に多い業態だ。

筆者らはコロナ禍でのキャッシュレス決済の普及は利便性向上やポイント付与に加え、「非接触による感染予防」という新たな付加価値を有したからだと考える。そのためキャッシュレス決済比率は決済回数ベースで計算した。15年1月にはキャッシュレス決済比率は22%(クレジットカードが9%、電子マネーが13%)だった。21年2月には同比率は53%へと大幅に上昇している(同34%、19%)。

私たちの行動様式は1カ月程度ではそれほど変化しないが、1年も続くと定着してくる。本稿では、POSと家計簿アプリの2種類の消費ビッグデータから、コロナ禍での「食」に関わる財とサービスの購買行動の大きな変化を確認した。またキャッシュレス決済の普及については、感染予防のための接触回避を決済回数の指標で可視化した。

コロナ禍の下ではビッグデータにより必要物資の流通、人流・交通量、感染状況などを把握し、積極的に政策に活用している。これを機に平時に戻っても、国にはビッグデータビジネスを手掛ける企業に加え、企業活動に伴い発生するデータについても調査し、国内のデータ資源の把握に努めてほしい。それが今後、有事にも平時にも政策の質を上げることに貢献する。

2021年4月6日 日本経済新聞「経済教室」に掲載

2021年4月9日掲載

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