世界を席巻するモノづくり日本企業
GNTとは? 戦略と企業

細谷 祐二
コンサルティングフェロー

モノづくり企業が勝ち残る方法の1つは、価格決定の主導権を握ることだ。それには世界市場をわずかな企業で寡占する特定の分野、ニッチ(すきま)市場を押さえる必要がある。それがグローバル・ニッチトップ(GNT)戦略であり、実現できるのがGNT企業である。

海外にも浸透

筆者は、2011年に経済産業省では日本を代表するGNT企業31社のヒアリングを行った。そして、12年、経済産業研究所では国内市場におけるニッチトップ(NT)企業を含む2000社を対象にアンケート調査を行い、663社から回答を得た。この一連の調査で、GNT企業とは「複数のNT製品を保有し、そのうち少なくとも1つで海外市場でもシェアが立っている企業」と定義した。

 

今回、GNT企業は、企業パフォーマンスが中小企業一般より優れるNT型企業663社の中でも、売上高、利益率、生産性の全ての面で一頭地を抜いていることがデータで証明された。また、NT型企業に共通する製品開発力や模倣を防ぐ能力の高さ、海外市場への着実でスマートな浸透などの特徴を代表的に備え、GNT戦略と呼ぶのがふさわしい学ぶべき企業行動が浮き彫りとなった。

生きた実例

大阪堂島に本社を置く利昌工業はGNT企業の代表格である。最初のNT製品は電解コンデンサーの封止用のゴム張り積層板である。積層・圧着という技術コンセプトを全く異なる素材に用いたのが、高耐熱ガラスエポキシテープという第2のNT製品である。

 

利用しやすくテープ状にしたプリント配線板材料で、この上にICチップを載せカードに熱と圧力をかけて接着する、世界シェアは85%である。ICカードは80年代に欧州でテレホンカードとして普及したため、テープを利昌工業が欧州に輸出し、カードの形で日本が輸入している。

ニーズに対応

GNT企業の場合も、最初のNT製品は自社の技術シーズから発想したものが少なくない。しかし、2番目以降の製品はその企業の優れた評判を聞きつけたユーザーから「こんなことはできないか」と持ち込まれた相談へのソリューションが製品に結実するなどニーズから発する場合が極めて多い。他方、開発の過程で協力してくれる大手・中小のサプライヤーや大学などとの独自のネットワークを長年にわたり築いている。利昌工業も例外ではない。連続自動生産というニーズを確信し困難を克服した結果がガラスエポキシテープである。

 

模倣できない手立てとして、利昌工業の場合は、社内のごく一部の人間しかコアとなる製造プロセスを見ることができない。技術漏出のリスクを考慮し欧州大手ユーザーの工場用地提供の申し出を断り、日本で作り続け輸出している。

2013年6月11日 日刊工業新聞に掲載

2013年6月28日掲載

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