40ドル割れの可能性が出てきた原油価格
高まる原油需要減少の懸念、減産合意の実効性には疑問符

藤 和彦
上席研究員

12月17日の米WTI原油先物価格は世界的な景気先行き不安から1年2カ月ぶりに1バレル=50ドル割れで取引を終えた。その後も下落が続き、一時1バレル=45ドル台の安値を付けた。

12月7日のOPECをはじめとする主要産油国の減産合意(日量120万バレル)によりWTI原油価格は一時1バレル=53ドル後半まで上昇したが、その後、下落傾向に歯止めがかからなくなっている。

疑問視される減産合意の実効性

供給面を見てみると、11月のOPECの原油生産量は前月比10万バレル増の日量3303万バレルと高水準を維持している。イランの生産量が前月比38万バレル減の日量295万バレル、ベネズエラの生産量が前月比5万バレル減の同114万バレルに減少したのに対し、サウジアラビアの生産量は前月比38万バレル増の同1102万バレル、アラブ首長国連邦(UAE)は前月比7万バレル増の同325万バレルと増加している。

12月のロシアの原油生産量も日量1142万バレルと過去最高水準で推移している。

米国の原油生産量は日量1160万バレルと若干鈍化し、石油掘削装置(リグ)稼働数も減少しているものの、シェールオイルの増産傾向は止まらない(2019年1月の生産量は前月比13万バレル増の日量817万バレルになる見通しである)。米国地質調査所は12月に入り「主要産地であるパーミアン鉱区のシェールオイルの埋蔵量がこれまでの予測値の2倍である」との調査結果を発表した(12月7日付OILPRICE)。このことから、米国の原油生産の増勢は2025年以降も続く可能性が出てきている。

主要産油国の減産合意で原油価格のさらなる下落懸念は薄らいだかに見えた。しかしその後、減産合意の実効性を疑問視する声が高まっている(12月10日付ブルームバーグ)。2017年1月から実施された減産の際には国別の割当量が明示された。だが、今回の合意ではOPECで日量80万バレル、非OPECで同40万バレルとされたものの、国別の割当量がいまだに明らかになっていないからである。

ロシアは来年(2019年)1月から日量23万バレルの減産を確約したが、削減を数カ月かけて段階的に行うとしている。ノヴァク・エネルギー相は12月11日、「1月の減産分は同5~6万バレルにとどまる」ことを明らかにした。

OPECでは、UAEのマズルーイ・エネルギー相が10日、「来年3月末までに確定する」との見通しを示したとおり、国別の割当量の調整は難航している。サウジアラビアが今回もOPEC全体の減産量の半分(日量40万バレル)を負担しないと合意の水準にまで達しないと見込まれるが、サウジアラビアにその覚悟があるのだろうか。

中国、インドで原油需要に陰り

「来年を通して世界の原油市場は供給過剰が続く」としていた国際エネルギー機関(IEA)は、12月13日に「主要産油国の減産合意により世界の原油市場はこれまでの予想よりも早く来年第2四半期には供給不足になる可能性がある」との見解を示した。IEAは減産に加えて「来年第2四半期に原油需要の伸びが加速する」ことを理由に挙げている。

だが、はたしてそうだろうか。

主要産油国が調整にもたつく中で、市場関係者の間では「日量120万バレルの減産では需給を均衡させるには不十分である」との声があがり始めている。世界経済の減速により世界の原油需要が減少するとの懸念が強まっているからである。

世界最大の原油輸入国となった中国の11月の原油輸入量は日量1048万バレルと過去最高となったことが10日判明したが、市場が反応することはなかった。だが、翌11日から14日にかけて「11月の自動車販売台数は前年比14%減」「11月の小売売上高は15年ぶりの低い伸び」「11月の鉱工業生産は3年ぶりの低い伸び」など中国経済の悪化を示す材料が続くと原油市場は敏感に反応した。

世界第3位の原油消費国となったインドでも、11月の新車販売台数が前年比2%減となるなど同国の原油需要に陰りが見え始めている。金融システムの脆弱性を抱えるインドで中央銀行に当たるインド準備銀行の総裁が10日突然辞任したことも心配の種である。辞任理由は明らかになっていないが、「政府との軋轢が原因」と噂されている。

悲惨な状況になっている米レバレッジドローン市場

世界最大の原油消費国である米国の原油需要は引き続き好調だが、金融市場の変調ぶりが鮮明になってきている。

原油価格が50ドル割れした17日の米国の株式市場のS&P500種株価指数が1年2カ月ぶりの安値となった。原油安が世界経済の成長の弱さのサインとみなされている(12月7日付ロイター)背景には、原油価格の下落により「信用スプレッド(米10年物国債利回りとジャンク債利回りの差)」が拡大し始めたことがある。

米FRBが昨年末以降ベースマネーの伸びを前年比マイナスにしたことで商品価格が軒並み下落したが、原油価格のみが高値を維持してきた。だが11月の「米国のイラン制裁」が期待外れだったことから原油価格が急落し、信用スプレッドが拡大し始めたのである。

ジャンク債市場から資金流出が始まっているが、それ以上に悲惨な状況になっているのがレバレッジドローン市場である。レバレッジドローンとは高債務の企業向けの融資のことだ。投資家を保護する目的で信用を補強するためにローン担保証券(CLO)が組成されたことにより、高い利回りを求める投資家の資金が大量に流入し、米国のレバレッジドローン市場は1兆ドルを超える規模になった。数カ月前には額面を上回って取引されている規模が70%を超えていた。

だが、その割合が1%を割り込むまでに減ったことで、12月に入ると同市場から大量の資金が流出し始めている(12月17日付ブルームバーグ)。レバレッジドローン市場でもシェール関連企業のウェイトが大きいとされており、原油価格の急落により、ジャンク債以上に急拡大していたレバレッジドローン市場のセンチメントが一気に悪化したと考えられる。

心配なのは、レバレッジドローン市場に大量の資金を投入しているのが日本の銀行であるということだ(12月17日付ブルームバーグ)。UBSによれば、日本の銀行は最上級のトリプルA格付けのCLOを購入しているが、過去数年でこのアセットクラスに流入した資金のうち、日本の銀行が33%を占めているという。リーマンショックの引き金となったサブプライム関連金融商品にさほど手を付けなかったことから日本の銀行は比較的ダメージが少なかったが、今後米国の金融市場で危機が生ずれば、最も打撃を受けるのは日本の銀行かもしれない。

原油価格の急落をきっかけに総崩れとなったレバレッジドローン市場の影響を受けてジャンク債市場もさらに悪化することが予想される。今後、米国の株式市場は大幅な調整局面に入る可能性があるだろう。

現在の世界経済は金融主導であることから、原油価格の下落による個人消費へのプラスの影響よりも株価急落による逆資産効果というマイナスの影響のほうがはるかに大きい。これまで「無敵」だった米国の株式市場の不調が続けば、米国経済が来年にも景気後退入りするのではないだろうか。

世界が抱える債務は過去最大に

欧州経済も心配である。

英国のメイ首相は、否決される可能性が高いことを理由にEU離脱案の議会採決を来年1月に延期した。だが、事態が好転する見込みは今のところない。英国メディアは、11日に消息筋の話として、「合意のないブレグジット(英国のEU離脱)となった場合、金融機関が混乱するリスクが大きいと英国政府がEUに警告している」と報じた。そのリスクは回避されたわけではなく、来年1月まで先延ばしされたにすぎない。

欧州経済の雄であるドイツでもバブル崩壊の懸念が生じている。リーマンショック以降、居住用住宅価格が40%上昇している(2018年8月10日付東洋経済オンライン)からだが、米国や中国を始めとする世界経済がおかしくなれば、ドイツの不動産バブル崩壊も現実味を帯びてくる。

国際通貨基金(IMF)は13日、「世界が抱える債務はリーマンショック以降の世界各国の大規模な金融緩和策により2017年に184兆ドルに膨らみ、過去最大を更新した」と発表した。「巨大な債務の山が崩れだしたら」と思っただけで背筋が寒くなる。

ロイター(12月13日付)は、「2019年経済展望、何でもありの『ブラックスワン』」と題するコラムを掲載した。その中で「原油(価格)は極めてもろく、(1バレル=)20ドルになる確率の方が急なリバウンドの確率より高い」としているが、チャート分析によれば、原油価格は今後1バレル=30ドル台前半まで下落する可能性がある(リーマンショック後の2009年3月の原油価格は同33ドルまで急落した)。

サウジアラビアが懸念する「米国のサウジ離れ」

最後にサウジアラビア情勢である。

19日、サウジアラビア政府は2019年予算を公表した。前年比7%増の295億ドルと史上最大規模であるが、歳入の大半を占める原油価格を1バレル=80ドルと想定している。

原油価格の見通しに不透明感が漂う中でサウジアラビアが苦肉の策として考え出したのは、米国への原油輸出を大幅に削減することである(12月14日付ブルームバーグ)。2000年代前半に日量200万バレル以上だった米国への原油輸出量を4分の1にまで削減する計画だ。その狙いは、米国の原油在庫を減少させることである。このところ増加傾向にある米国の原油在庫を減らせば原油価格は上昇するという算段だ。

だが、パイプラインの改修が進みカナダからの原油輸出が増加していることから、この目論見は「水の泡」となってしまうかもしれない。

サウジアラビアの意図に反して米国への原油輸出量を削減する行為が「米国のサウジ離れ」を加速することも「後顧の憂い」である。

米上院は13日の本会議で「国在住だったサウジアラビア人記者カショギ氏殺害事件はサウジアラビアのムハンマド皇太子に責任がある」と非難する決議案を全会一致で採択し、同時に、トランプ政権に対してイエメン内戦での米軍によるサウジアラビア支援の中止を求める決議案を賛成多数で可決した。

また翌14日には米主要メディアが、「トランプ氏を支持する特別政治活動委員会(スーパーPAC)がサウジアラビアから違法に献金を受け取った疑いでニューヨーク連邦検査が捜査を始めた」と一斉に報じた。ロシア疑惑に続くサウジアラビア疑惑の浮上である。

その中でトランプ政権は、自らの要請に反してまで12月7日の減産合意を成立させた上、原油価格の高止まりを企むサウジアラビアを、いつまで擁護するのだろうか。

2018年12月21日 JBpressに掲載

2018年12月28日掲載