新春特別コラム:2022年の日本経済を読む~この国の新しいかたち

性急な「脱炭素」の動きが招く原油価格高騰

藤 和彦
上席研究員

大きな混乱を伴う再エネ移行

「今後も化石燃料への投資を続けるべきであり、そうでなければインフレや社会不安が急増して排出目標の放棄を余儀なくされる危険性がある」

世界最大の石油会社であるサウジアラムコのアミン・ナセルCEOは、2021年12月6日から米ヒューストンで開催された世界石油会議の場で世界の指導者たちにこのように訴えた。ナセル氏はさらに「石油・天然ガスが移行期において必要不可欠な役割を果たすことを公に認めることは一部の人々にとって困難であることは理解しているが、この事実を認めないと価格は耐えられなくなるほど高くなる」とし、「世界は一夜にしてよりクリーンな燃料に移行できるという前提を捨てるべきだ」と釘を刺した。

この会議に出席した米油田サービス大手ハリバートンのシェフ・ミラーCEOは「化石燃料の開発投資が長年にわたって低迷したことを受けて、世界が石油不足の時代に突入しつつある。供給不足が緩和するまで10年前後かかる可能性がある」との見方を示した。

米石油メジャーのコノコフィリップスのライアン・ランスCEOも「エネルギー移行に向けた生産業者への圧力やOPECの余剰生産能力を不安視する声があるため、『大混乱の移行』となるのは必至だ」と危惧している。

世界の原油市場の健全な発展のために設立された国際エネルギー機関(IEA)は2021年10月のCOP26では「原油に関する新規投資を今年中に停止すべき」だと主張した。2019年まで「世界の原油開発の分野で投資不足が深刻になっており、近い将来、深刻な供給不足に陥る」と警告していたが、脱炭素という急速な動きを前に「手のひら返し」をした形だ。梯子を外された業界関係者はたまったものではない。

投資不足による供給不足

2021年12月中旬の米WTI原油先物価格は1バレル=70ドル台前半で推移しているが、ゴールドマンサックスは「原油市場は構造的な強気相場だ。原油価格は上昇する態勢にある」との見方だ。その理由は供給不足への懸念だ。新型コロナが収束し原油需要は急速に増大する可能性がある来年の後半以降は大幅な供給不足に陥るとしている。

JPモルガンも「OPECプラスの来年の余剰生産能力(30日以内に生産が開始でき、180日以上維持できる生産能力)が25年ぶりの低水準に落ち込む(日量200万バレル)」との前提に基づき「2022年の原油価格は1バレル=125ドル、2023年は同150ドルに達する」との予測を公表している。

OPECプラスを始め世界の余剰生産能力が減少した背景には、シェール革命が引き起こした2014年以降の価格急落で石油開発分野での投資が過小になってしまったことにある。これに新型コロナと脱炭素による下方圧力が重なり、2014年に約8,000億ドルだった投資額が今年は約3,400億ドルにまで下落した。今後反転する兆しが見られないが、「供給不足を解消するためには年間の投資規模を5,000億ドル以上にする必要がある」と言われている。

投資不足に起因する供給不足の兆しが出始めている。ナイジェリア(日量168万バレル)などOPECプラスの一部の産油国は2021年10月から投資不足の影響で生産能力が低下し、小幅増産のペースにも追いつけなくなっている。世界最大の余剰生産能力を誇るサウジアラビアも「これを維持するためには相応の努力が必要だ」としている。

投資不足が最も深刻なのは米国だ。脱炭素を掲げるバイデン政権と石油業界の間の溝が深まっている。バイデン政権は就任直後に建設が始まっていたカナダとメキシコ湾を繋ぐ原油パイプラインの許可を取り消し、原油向けの国有地も新規リースに消極的な姿勢を示してきた。このためシェール企業の財務状況が劇的に改善したのに増産に向けた投資の動きが見られない。「潤沢なシェールオイルが原油市場の供給不安を和らげてくれる時代は終わってしまった」との声が聞こえてくる。

精緻な工程表が必要

2021年半ばから世界の天然ガス価格が高騰した。脱炭素を急ぐ欧州での天然ガスシフトが主な原因だとされている。これまで原油に比べて割安だった天然ガス価格はピーク時に原油換算でバレル当たり200ドル超えになるという異常事態となったが、このような事態が今後も起こらないという保障はない。世界全体で化石燃料から再生可能エネルギーに転換していく精緻な工程表が存在しないからだ。

原油の埋蔵量は豊富であり、少なくとも50年以上は枯渇する心配はない。だが原油を採取するためには莫大な投資が必要であり、開発から生産までの期間は5年以上にわたることがしばしばだ。「このままの状況が続けば、原油の需要が減少する速度よりも供給が縮小するペースの方が早い」との見方が一般的だ。「親の仇」と憎んでいる原油から手痛いしっぺ返しを食らってしまうのではないだろうか。

新たな石油危機を回避するには、世界全体の脱炭素の動きと原油の安定確保のバランスを図ることが不可欠だ。原油を輸入に依存している日本は世界を主導する形で建設的な議論を進めていくべきだ。

2021年12月22日掲載