「熱移送説」が予測していた鳥取地震
東京オリンピックは防災こそがいの一番の課題

藤 和彦
上席研究員

10月21日午後2時7分頃、鳥取県中部を震源とするマグニチュード6.6の地震が発生した。震源の深さは11キロメートルと浅く、鳥取県の倉吉市・湯梨浜町・北栄町で震度6弱を観測した。震度1以上の揺れを観測した地震は24日に入り200回を超えた。公共施設などに避難している人は約600人となり、鳥取・岡山両県で計16人が重軽傷を負い、農業や観光分野で深刻な被害が明らかになっている。

鳥取県では1943年9月10日マグニチュード7.2の大地震が発生、1000人以上の死者が出た。今回の地震で犠牲者が出なかったのは不幸中の幸いである。

鳥取地震の発生を警告していた角田氏

筆者は、プレートテクトニクス理論(プレート説)に代わる地震発生メカニズムの理論「熱移送説」を広く一般の方々に紹介するため、今年7月に、提唱者の角田史雄埼玉大学名誉教授とともに『次の震度7はどこか!』(PHP研究所)という本を上梓した。

熱移送説とは、地球の内部で発生した熱エネルギーが、スーパープリューム(高温の熱の通り道)を通って地球表層に運ばれ、その先々で火山・地震活動を起こすという論理である。

熱エネルギーの発生場所は、南太平洋(ニュージーランドからソロモン諸島にかけての海域)と東アフリカの2カ所である。熱エネルギーが移送されることによって生じる火山の噴火地点や地震が起こる場所は変わらない。また、熱エネルギーは1年に100キロメートル以上の速さで移動する。よってインドネシアやフィリピンで地震や火山の噴火が起きた場合、その何年後に日本で地震や火山の噴火が起きるかがある程度予測できるとしている。

(熱移送説の詳しいメカニズムは本書をお読みいただきたい。また本コラムの「直下型地震の前触れ?伊豆・相模地域は要注意」、「韓国が学びたい『地震先進国』日本のお寒い現状」 などの記事も参照いただきたい)

角田氏は本書の中で、「熊本地震を発生させた熱エネルギーが中国地方(大山火山帯)に移送されるため、次は中国地方の日本海沿岸地域が危ない」(81、90ページ)と警告を発していた。

また鳥取地震後の地震発生の危険地域については、「移送されている熱エネルギーが大きければ、『地震の癖』により、若狭湾や石川県沖の海域の深いところで今後マグニチュード5クラスの地震が発生する可能性がある」としており、引き続き警戒が必要である。

「電離層の擾乱」から地震を予知する早川氏

熱移送説は非常に説得力のある理論だと筆者は確信しているが、短期的な予測(1週間から10日以内)を行うことができないという欠点をはらんでいる。

そこで筆者が注目しているのは、「電離層の擾乱」という地震の前兆現象をもとに短期の地震予測を行っている早川正士 電気通信大学名誉教授の活動である。

プレートテクトニクス説によれば「大きな地震の前には前兆すべりという現象が起きる」とされている。そこで日本の地震学者は東海沖地震発生が予測された1970年代後半以降、「前兆すべり」をつかむための努力を行ってきた。しかし、阪神・淡路大震災、東日本大震災、熊本地震のいずれの場合も「前兆すべり」は確認できなかった。

これに対し早川氏は20年以上にわたり、これまでの地震学とはまったく別の手法(地震電磁気学)で地震予知に取り組んできている。早川氏の元々の専攻は電気工学であり、地震発生のメカニズムを解明する地震学の専門家ではない。

早川氏が関心を持っている分野の1つに「地球上を飛び交っている電磁波についての研究」があったが、その研究を行っているうちに地震の直前になると、地上のはるか上空にある電離層(注1)で擾乱(注2)が起き、電磁波の伝搬異常が発生することに気がついた。

阪神・淡路大震災後からこの現象に着目し始めた早川氏は、「地震発生と電離層擾乱の間にはたしかに明らかな因果関係がある」との実証データを積み重ね、「大きな地震が起きる前には前兆現象として電離層擾乱が発生する」との学説を提唱した。

地震予測は実用化の段階に入ったと考えた早川氏は2010年に「地震解析ラボ」という研究所を立ち上げ、契約者を対象に週2回、マグニチュード5以上の地震に関する情報を提供している。

筆者も5年近くその情報を見ているが、直近では10月20日の千葉県北東部を震源とするマグニチュード5.3の地震発生を予測している(筆者は霞が関の経済産業省別館11階で勤務していたが、「緊急地震速報」のアナウンスが流れた直後に比較的大きな揺れを感じ、再び肝を冷やした)。

厳密に分析したわけではないが、「地震解析ラボ」の常連客である筆者の感じでは、的中率は約5割と言ったところである。地域的に見ると「東日本や北海道で的中率が高い」という印象がある。しかし今年4月の熊本地震や今回の鳥取地震の予測はできなかった。

その理由は、「地震解析ラボ」にはハード、ソフトの両面に問題があるからだと思う。

まずハード面だが、早川氏が電離層の擾乱を検知するための電波としてVLF波(超長波)を重要視しているが、日本国内での観測点が限られており、伝搬異常が発生したときにすべて検知できるという万全な体制にはなっていない。早川氏の研究テーマは2000年から数年間「地震総合フロンティア研究」という国家プロジェクトに採用された(国の予算が充当された)が、十分なインフラ整備ができない段階で予算が打ち切られてしまった(打ち切りの理由は不明)。一刻も早く国によるさらなる整備が待たれるところである。

ソフト面では地震学、特に角田氏との緊密な連携が不可欠だろう。角田氏は早川氏の取り組みを高く評価しているが、「熱エネルギーが移送された地域では、地下の温度が上がり当該地域の磁力が下がるため、電離層の擾乱が起きにくくなるのではないか」との問題点を指摘している。

角田氏によると、九州・西日本地域には現在、大量の熱エネルギーが移送されている。九州・西日本地域で「地震解析ラボ」の予測が低調な理由が、大量の熱エネルギーのせいだとすれば、今後の大地震の発生予測に地震解析ラボはあまり有効ではないということになってしまう。両氏のさらなる協力を切望したい。

大規模な熱エネルギーが首都圏に到来する

なお角田氏は、若狭湾や石川県沖の海域とともに、伊豆・相模地域でも大規模な地震が発生する可能性を指摘している。

2014年10月に伊豆諸島の八丈島(東京の南288キロメートルに位置する)の東方沖でマグニチュード5.9の地震を発生させた熱エネルギーが、年間約100キロメートルで北上し、伊豆・相模地域に到達する。その結果、「2017年後半から2018年にかけて、伊豆・相模地域において大規模な直下型地震(マグニチュード6クラス)が発生する」という。

当該地域での大規模な地震発生の前兆現象と、角田氏が考える伊豆大島地域の地下活動が活発化していることから、「その可能性が一層高まった」としている。

また、最近、角田氏はさらに気になる予測をし始めている。

「西ノ島(東京の南約1000キロメートルに位置する)の面積を12倍にした熱エネルギーが、2020年頃に本州地域に到達する」というものである。移送ルートの深さなど測定した結果、当初の想定より早くかつ大規模な熱エネルギーが首都圏に到来することが分かってきたという。

熱エネルギーの規模が格段に大きければ、伊豆・相模地域に限らず首都圏直下でも大規模直下地震を発生させる可能性がある。2020年と言えば、東京オリンピックが開催される年である。「レガシー」「予算節約」「復興五輪」などのキーワードが唱えられているが、「防災(減災)」こそが「いの一番」の課題ではないだろうか。

2016年10月25日 JBpressに掲載

脚注
  1. ^ 電離層:地球を取り巻く大気の上層部(地上から100キロメートル)にある分子や原子が紫外線等により電離した領域のこと。この領域は電波を反射する性質を持つため短波帯の電波を用いた遠距離通信に利用されている
  2. ^ 擾乱:大気が乱れる現象を指す気象学の用語

2016年11月2日掲載

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