武漢ウイルス研究所流出説、海外で再び広がる…ファウチ所長のメール公開、風向き変わる

藤 和彦
コンサルティングフェロー

中国・武漢ウイルス研究所流出説の信憑性が、ここに来て急速に高まっている。英ロンドン大学のダルグリッシュ教授とノルウェーのウイルス学者のソレンセン氏が「新型コロナウイルスは実験室の操作でしか得られないユニークな痕跡を発見していた」ことが5月下旬に明らかになった。「ウイルスのスパイクに正電荷のアミノ酸が4つ並ぶ」という自然界には存在しない配列が見つかったのだが、これにより、磁石が鉄を引きつけるようにウイルスが人の細胞に結合しやすくなっていることから、人為的に感染力を高める「機能獲得研究」が行われたのではないかという主張である。

6月7日付ウォール・ストリート・ジャーナルは「米カリフォルニア州のローレンス・リバモア国立研究所は、新型コロナウイルスの起源について『中国の武漢ウイルス研究所から流出した』とする仮説は妥当だと判断し、さらなる調査が実施されるべきだと結論付けていた」と報じた。同研究所は生物学に関する専門知識が豊富なことで知られ、新型コロナウイルスのゲノム解析などを行い、2020年5月に報告書を作成していた。新型コロナウイルスからCGG-CGGという組み合わせの塩基配列が発見されたが、このような塩基配列は自然界では存在せず、ウイルスの感染力を高めるなどの実験を行う際に人為的に注入されることが多いとされている。

この報告書は現在も機密扱いとなっており、ブリンケン米国務長官は7日、「同報告書の作成に関与したのは一握りの人間にすぎない」と火消しを迫られている。

バイデン大統領が5月下旬に新型コロナウイルスの起源についての再調査を情報機関に指示して以来、連日のように新事実が明らかになっているが、その中で「渦中の人」となったのは米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)のアンソニー・ファウチ所長である。ファウチ氏は1984年から同所長を務め、現在も新型コロナウイルス対策の陣頭指揮をとっている。しかし、ニュースサイト「バズフィード」が情報自由法に基づきファウチ氏の電子メールの公開を要請、3200通に及ぶメールが公表されると、雲行きがおかしくなっている。

中国との関係が深いダスザック代表

最初に問題になったのは、昨年1月末に知り合いの研究者から「問題のウイルスは自然に変異したとは考えられない異常な特徴がある」とのメールを受け取ったが、ファウチ氏はその事実を明らかにせず、むしろ「ウイルスは動物から人に感染した」とする自然発生説を強調するようになった。

ファウチ氏の主張にいち早く賛意を示したのがニューヨークの非営利団体エコヘルス・アライアンスのピーター・ダスザック代表である。ダスザック氏は昨年2月、医学誌「ランセット」に「新型コロナウイルスが自然な発生源を持たないことを示唆する陰謀論を私たちは断固として非難する」と宣言し、これをきっかけにメディアに頻繁に登場することになった。ダスザック氏は、WHO武漢現地調査団のメンバーとして唯一中国への入国が認められた米国人となり、WHOが「研究所流出説はあり得ない」と結論付けるのに主導的な役割を果たしたとされている。

一躍「時の人」となったダスザック氏だが、武漢ウイルス研究所のコウモリのウイルス研究の第一人者である石正麗氏と長年共同研究を行い、十数本近い論文を共同執筆するなど中国との関係が深い。ダスザック氏が代表を務めるエコヘルス・アライアンスが受け取った連邦助成金のうち60万ドルを武漢ウイルス研究所に研究資金として提供しているが、その際、米保健福祉省に設けられた危険なウイルス研究を防止する役割を担うP3COの審査を受けていなかったことが問題になっている。

審査が行われなかった理由は、ファウチ氏が所長を務めるNIAIDが「機能獲得実験ではない」と判断したからだが、「この助成金を元に武漢ウイルス研究所は雲南省のコウモリの体内から見つかったコロナウイルスについての機能獲得実験をずさんな安全基準の下で行っていた」と考えている研究者は少なくない。

欧米の科学機関や学術誌に浸透する中国の情報機関

ファウチ氏は5月12日の議会で「米国がウイルスの機能獲得実験のために武漢ウイルス研究所に補助金を出したことはない」と証言していることから、医師(眼科医)であり自らも新型コロナウイルスに感染した米上院のランド・ポール議員(ケンタッキー州選出、共和党)は偽証罪が適用されるかどうか議会での証言を求めている。

ファウチ氏への追及の手を緩めないポール氏の下には、連日のように脅迫メールが届いている(6月7日付ZeroHedge)。今年3月に「研究所流出説」の可能性を議会で証言した米国疾病対策センター(CDC)のレッドフィールド前所長にも科学者からの脅迫メールが多数送りつけられているという。「研究所流出説」を唱えていたポンペオ前国務長官も政権内の関係者から猛烈な反対を受けたことを認めている。欧米の科学機関や学術誌に浸透している中国の情報機関が、真実を語ろうとする科学者を沈黙させようとしているとの指摘がある。

もし、一部の研究者が国内で実施しづらい危険な実験を中国で行っていたことが事実であれば、米国にも今回のパンデミックの責任の一端が発生するが、それでも中国の重大な責任はいささかも減じないことはない。危険なウイルスが研究所から流出した事実を隠したことで世界全体に多大な被害をもたらした疑いが持たれている中国政府は、武漢ウイルス研究所と類似のウイルス研究所を追加で各地に設立する計画を立てているという(6月6日付米FOXニュース)。

中国発のパンデミックの再来を防ぐため、米国政府は自らが保有する情報を一刻も早く国際社会に公開し、中国のさらなる暴挙をくい止めるべきではないだろうか。

ニュースサイトで読む: https://biz-journal.jp/2021/06/post_231608.html
Copyright © Business Journal All Rights Reserved.

2021年6月10日 Business Journalに掲載

2021年6月17日掲載