「新型コロナ発生源は中国ではない」宣伝活動を世界で活発化…武漢ウイルス研、発生に関係か

藤 和彦
上席研究員

中国の湖北省武漢市で新型コロナウイルスによる感染者が発生してから12月8日で1年が過ぎたが、人への感染ルートを解明する世界保健機関(WHO)の調査は今も進んでいない。世界的流行の責任追及を避けたい中国政府が、外部調査の受け入れに消極的だからである。

WHOが2月に中国へ派遣した調査団は武漢入りしたものの、発生源とされている海鮮市場は調査できなかった。その後各国の専門家による大規模な現地調査を実施するため、7月に先遣隊を中国入りさせたが、現在に至るまで実現していない。中国当局は最近になってWHOの現地調査を容認したが、「調査は中国の専門家が主導し、WHOは補完的な役割を果たす」という条件を課したといわれている。

中国の無責任な態度はこれだけではない。新型コロナウイルスの感染者が世界的に急増しているなかで、中国は「新型コロナウイルスの発生源は中国でない」との宣伝活動をさかんに実施するようになっている。

新型コロナウイルスは昨年末に武漢の海鮮市場で最初に確認されたとされているが、中国の国営メディアは「諸外国から輸入された冷凍食品により、新型コロナウイルスが中国に持ち込まれた」という主張を繰り返し報じている。容疑をかけられているのは、ドイツ産の豚、エクアドル産のエビ、ノルウェー産のサケなどである。

一方、中国の研究者のなかで「新型コロナウイルスの発生源はインドである」と主張する動きも出てきている。11月29日付サウスチャイナ・モーニング・ポストは、中国の研究者が国際学術誌「Molecular Phylogenetics and Evolution」に掲載した論文の内容を伝えている。その内容は「新型コロナウイルスが武漢で発生する前に、豪州、バングラデシュ、ギリシャ、米国、ロシア、イタリア、インド、チェコの8カ国ですでに存在していた。新型コロナウイルスは昨年の夏にインドで発生し、汚染された水を通じて動物から人間へと伝染した後、バングラデシュなどを経て武漢に流入した」というものである。

確かにイタリア国立がん研究所は11月中旬に「昨年9月にがん患者から採取したサンプルから、新型コロナウイルスが検出された」とする論文を発表しているし、米疾病予防管理センター(CDC)も11月下旬に「昨年末から今年初めまで米国赤十字が集めた献血7389件のうち106件から新型コロナウイルス感染の証拠を発見した」ことを明らかにしている。しかし、昨年9月にイタリアで新型コロナウイルスが存在していたとしても、必ずしもそこが起源だということにはならない。発生源とされたインドは、憤懣やるかたない思いではないだろうか。

中国共産党の隠蔽行為

中国側の宣伝工作にもかかわらず、世界の専門家たちは「新型コロナウイルスの発生源は中国である」との確信は揺らいでいない。むしろ真の発生源を特定しつつあるようだ。

新型コロナウイルスの発生源を調査中であるWHOのピーター・ベンエンバレク氏は、12月8日のNHKとのインタビューで「新型コロナウイルスと最も近いのは、2013年に中国雲南省のコウモリが生息する洞窟で発見されたウイルスだ。新型コロナウイルスと近いウイルスが雲南省で発見されたことから、中国内で発生したとみるのが最も論理的である」と述べている。

ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンで遺伝子学を研究するフランソワ・バルー氏も「新型コロナウイルスに最も近似するウイルス株が中国のコウモリを介して広がったという強力な科学的根拠があり、起源は中国の可能性が最も高い」と主張している(11月29日付ロイター)。

雲南省のコウモリが起源だとすれば、なぜ雲南省ではなく、湖北省の武漢で新型コロナウイルスの感染者が最初に発生したのだろうか。この謎を解くヒントを与えてくれるのは、森下竜一・大阪大学教授である。森下氏は現在、新型コロナワクチン開発に尽力しているが、著書のなかで「武漢ウイルス研究所の石正麗氏のチームが中国中からコウモリ由来のコロナウイルスを集めていたのではないか」とした上で「彼らは、集めたコロナウイルスを動物に感染させて、病原性の高いものを探していたが、新型コロナウイルスを豚やウサギ、ネズミなどの動物では症状が出なかったことから、処理と称して実験動物の肉を市場に横流しして、それを誰かが食べたことが感染の第一歩だった可能性が高い」と述べている。

新型コロナウイルスが人為的につくられたことを示す証拠は見つかっていないものの、「新型コロナウイルスの流行について、コウモリ由来のコロナウイルスについて研究をしている武漢ウイルス研究所が関係している」と考えている研究者は少なくない。

「新型コロナウイルスの発生を隠蔽して世界に疫病をまき散らしたという認識が国際社会に広がれば、自らの執政の正当性が脅かされる」と恐れる中国共産党が、新型コロナウイルスの起源に関するウソを必死にばらまこうとしていることは容易に想像できるが、このようなことを続けていても「百害あって一利なし」である。

「国を愛する目的でウソをつくことは罪に問われない」とする「愛国無罪」という中国特有のスローガンは国際社会ではまったく通用しないこと、を中国共産党はいつになったら気づくのだろうか。

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2020年12月10日 Business Journalに掲載

参考文献
  • 「どうする!?感染爆発!! 日本はワクチン戦略を確立せよ!(ビジネス社)(森下竜一他著)

2020年12月17日掲載

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