中国「孤立化」の背景に日本や欧米による半植民地化の歴史…中国高官、大量に海外脱出

藤 和彦
上席研究員

中国の習近平国家主席は9月8日、医療専門家らの功績をたたえる表彰式に出席し、「自国は新型コロナウイルス対応で前代未聞の歴史的な試験に合格した」と誇らしげに語った。新型コロナウイルス発生の発端となった国が、いち早く災禍から立ち直るとはなんとも皮肉な話である。中国の管理主義的な国家体制が功を奏した結果だが、いまだに深刻な影響を受けている国からしてみれば憤懣やる方ないこと、この上ないだろう。

新型コロナウイルスのパンデミックが長引けば長引くほど中国のパワーが増していく一方で、「戦狼外交」と称される中国の対外強硬的な路線が日を追うごとに強まっている。「金持ち喧嘩せず」ではないが、他の国々に対してもっと寛容になっても良いのではないかと思うのだが、中国はなぜ自国の利益を優先した姿勢を続けているのだろうか。 

その背景には、中国の悲しい近代の歴史が関係していると筆者は考えている。有史以来「自らは世界の中心である」との幻想に浸ってきた中国は、1840年に夷狄である英国にアヘン戦争で徹底的に痛めつけられ、1894年から始まった日清戦争でも属国だと思っていた日本にまさかの敗北を喫した。その後1世紀にわたり欧米諸国や日本により半植民地化されたという苦い経験が深く刷り込まれていることから、中国は西側諸国が確立した国際秩序に不信感を抱き続けているのである。

精神分析学者の岸田秀氏は以前から「このような深刻なトラウマを抱えた中国は、自分に対する攻撃者が実際以上に巨大だと誤解して、被害妄想に陥る傾向が強い。被害妄想が過剰なまでの排他的ナショナリズムに転じる可能性もある」と指摘する。約40年前の改革開放を契機に中国は奇跡の経済成長を遂げ、今や米国と並ぶ大国となった。経済が発展するにつれて台頭し始めていた国粋主義的なナショナリズムを中国の指導部がこれまで慎重に取り扱ってきたが、習主席は2012年に「中国の夢」を語り始め、2017年には「2050年には世界のトップに立つ」ための具体的な行動計画を打ち出し、ナショナリズムという魔物を解き放ってしまった。

中国、国際社会で孤立

中国の不寛容な対外的政策は、アヘン戦争以降の屈辱の歴史に対する意趣返しなのかもしれないが、超大国になっても中国がこのような行動を取り続ければ、国際社会から孤立してしまう。共産党内でもこのことを憂う人たちが出てきている。

人民解放軍の代表的なタカ派として有名な中国国防大学戦略研究所の戴旭教授が今年3月に行った講演が、最近中国で大きな話題となっている(7月21日付中央日報)。戴氏は講演の最初に「米国のやり方が情け容赦のない非常に手厳しいものだった」と米国の中国に対する態度の急変ぶりに驚いたことを素直に告白している。

「現在の共産党指導部を構成する習主席の世代は、米国に対する見方が甘い」との指摘がある(「Voice」<10月号>)。1953年生まれの習主席が19歳になった1972年にニクソン大統領が訪中し、その後米中関係は長期間にわたって良好な関係が続いた。つまり米国は中国に対して常に「甘い顔」を見せてきたのだが、この経験が現在の中国の指導部が米国との対応を判断する際の基礎となっているというわけである。

戴氏はさらに「中国がこのように米国から不利益を被っているにもかかわらず、中国に同情や支持を示す国がひとつもない。多くの国が米国の貿易政策に反対しながらも、これによる最大の被害者である中国の味方となって反米戦線を構築しようとする国は現れない。中国は今まで世界各国に援助を惜しんでこなかったが、いざ重要な時期には中国と共に行動する国がいない」と中国が国際社会で孤立している状況に危機感を露わにしている。そして最後に「米国の前では絶対に『我々が米国を追い越す』と言ってはならない。中国は米国を相手にするとき、必ず怒りではなく理性を持って臨まなければならない」と締めくくっているが、指導部の対応が変わったようには思えない。

気になるのは冒頭で述べた表彰式の際に中国政府が「毛沢東が1950年代に『住血吸虫症』を撲滅したという勝利の物語」を持ち出したことである。住血吸虫症とは、淡水に棲息する寄生虫によって媒介される病気である。臓器不全を引き起こし、最終的には死に至らしめることもある。この物語はまったくの誤りであり、最新の公式データによれば、2016年の住血吸虫症の感染者は5万人以上に上るが、注目すべきは毛沢東がクローズアップされていることである。毛沢東は暗黒の近代から中国を救った唯一の人物であり、中国共産党は苦難に直面するたびに「毛沢東に戻る」習性がある。毛沢東の政策の基本は「怒り」である。

「共産党の指導者の狂気につきあうことはできない」

傍若無人のように振る舞う習主席だが、9月3日の抗日戦争勝利記念75周年の座談会の場で、7月に「中国共産党は中国ではない」と批判したポンペオ米国務長官の発言を念頭に、「いかなる人も、いかなる勢力も、中国共産党と中国国民を切り離して対立させようとする企てに対して、中国人民はけっして承諾しない」と強調した。

盤石に見える中国だが、中国共産党に対して国際的な批判が強まるなかで、習主席の心中は穏やかではなく、恐怖心すら抱いているのかもしれない。攻撃的なナショナリズムの陰に潜む被害妄想が頭をもたげており、毛沢東の時代のような鎖国状態に逆戻りする可能性も排除できない。

8月26日付米ラジオ・フリー・アジアは「海外移住や外国のパスポートを取得した中国高官は数百人どころではない。一般市民も海外移住を急いでいる」と報じた。人々は「共産党の指導者の狂気につきあうことはできない。今逃げなければ間に合わなくなる」と語っているように、中国社会にはかつてない社会不安が覆っているのかもしれない。

中国という超大型客船の底に少しずつ水が入り込み、「タイタニック号」のように沈没するのは時間の問題なのではないだろうか。

ニュースサイトで読む: https://biz-journal.jp/2020/09/post_179001.html
Copyright © Business Journal All Rights Reserved.

2020年9月12日 Business Journalに掲載

2020年9月18日掲載