ALS患者殺人、安楽死の代わりに広く行われている「終末期鎮静」に監視強まる可能性

藤 和彦
上席研究員

ALS(筋萎縮性側索硬化症)の女性患者の依頼を受け、薬物を投与して殺害したとして、京都府警は7月23日、医師2人を嘱託殺人の疑いで逮捕した。捜査関係者によれば、女性患者がSNS(交流サイト)を通じて大久保愉一容疑者に「安楽死させてほしい」という趣旨の依頼をした形跡があった。

女性患者は当初、自殺幇助による「安楽死」が認められているスイスに渡ることを希望していた。スイスには安楽死を幇助する団体が3つあり、日本でも有名である。2019年6月、難病に冒された独身の50代の女性がスイスで自殺幇助による安楽死を遂げた。テレビ番組『NHKスペシャル「彼女は安楽死を選んだ」』(2019年6月2日放送)は、献身的に支えてくれた2人の姉の面倒が心理的な負担となった彼女が、法律的に誰にも罪にならないスイスで、姉たちに看取られながら「自死」を決行した一部始終を伝えている。今回の女性患者は病状が進行したことからスイス行きを断念したようだが、スイスに行けていれば、誰にも迷惑をかけることなく「安楽死」を遂げていた可能性がある。

「安楽死」と呼ばれるものについては、(1)積極的安楽死(筋弛緩薬を静脈注射して患者を死に至らせる)、(2)自殺幇助(医師から与えられた致死薬で患者自らが命を絶つ)、(3)消極的安楽死(尊厳死、延命治療の中止など)に加えて、(4)終末期鎮静がある。終末期鎮静とは、終末期の患者に緩和ケア用の薬物を投与することであり、日本でも多くのホスピス病棟で実施されている。

日本では「積極的安楽死」や「自殺幇助」は法律上認められていないが、「終末期鎮静」がその代わりを担ってきたとの指摘がある。NHKと日本在宅ホスピス協会などが2015年に実施したアンケート調査によれば、在宅医師の4割が「過去5年間に終末期鎮静を行ったことがある」と回答し、そのうち2割は「積極的安楽死とあまり変わらないと感じることがある」としている。日本緩和医療学会は「終末期鎮静は安楽死ではない」と主張しているが、終末期鎮静により意識をなくせばそのまま死に至らしめることが可能であり、実際の機能としては「安楽死」と同じ役割を果たしているといわざるを得ない。

日本の自殺者の4割が高齢者

終末期鎮静がこれまで問題になってこなかったのは、医師と患者やその家族との人間関係が緊密だったからである。デリケートな問題を医師と患者らの個人的な信頼関係でなんとか処理するという、いかにも日本らしい解決策だった。しかし治療の現場が「近代化」され、かつてのように個人的な関係で実質的な「安楽死」を行えなくなってしまったことで、「安楽死」が日本でも問題視されるようになった。

薬物投与などで医師が患者を積極的に死に導く「安楽死」をめぐっては、過去に医師が殺人罪などで有罪になった例がある一方、不起訴になった場合もあるが、今回のように主治医でない医師が実行したケースは初めてである。女性患者の遺体から鎮静作用がある「バルビツール酸系」の薬物が検出されていることから、ホスピス医療を手がけてきた大久保容疑者が終末期鎮静を行った可能性が高い。そうだとすれば、今回の事件のせいで問題視されることなく実施されてきた終末期鎮静に対する社会の監視が強まる可能性がある。

「安楽死」を求めるのは難病患者ばかりではない。日本の自殺者の4割が高齢者であり、その大半は家族と同居している。その理由は「邪魔者扱いされている感じがするし、迷惑をかけてすまない」という気持ちからである。

多死社会を迎えつつある日本で「安楽死」問題は、今後医療現場はもとより社会を揺るがす大問題になるのではないだろうか。 「安楽死」を防止するために「回復が困難な患者のケアを拡充すべきである」ことは大切だが、それだけで十分だとは思えない。筆者は「安楽死」について肯定的ではないが、「一度きりの人生」で身体の自由が効かなくなれば、その後の人生がむなしくなるという気持ちはよくわかる。人間というのは、未来に対する希望がなければ、投げやりな考えに陥りやすい弱い動物である。

「生まれ変わり」の研究

世間の常識では、「死」について誰もその実体を知らないとされているが、「人は死んだらどうなるのか」という難問中の難問に、現在の科学が答えを導き出そうとしている。 日本ではほとんど知られていないが、米国ヴァージニア大学では約60年間にわたって世界各地から「生まれ変わり」の事例を2600以上集め、「生まれ変わり」という現象の謎の解明に努めている。筆者は「生まれ変わり」の主体を「情報」として捉えれば、量子物理学の知見でこの現象が説明できるのではないかと考え始めている。

また日本人の死生観のベースには「生まれ変わり」の信念があったこともわかった。  最新の認知科学の知見によれば、縄文時代の土偶や土器には「生まれ変わり」の信念が表現されており、「死」の概念は希薄だったようである。その後日本にさまざまな外来思想が流入したが、日本人のDNAには「生まれ変わり」の信念が脈々と流れている。高齢者を中心に「長くて緩慢な死」が大多数を占める多死社会が到来しつつある日本の医療現場では、少しずつではあるが「生まれ変わり」の信念がココロの薬となりつつある。

日本では残念ながら宗教家ですら死生観が語れないという現状だが、今後「生まれ変わり」の信念を1人1人が実感できる「ターミナル・ケア」に注目が集まることだろう。

以上のような問題意識から、筆者は『人は生まれ変わる 縄文の心でアフター・コロナを生きる』(株式会社ベストブック)を上梓した次第である。「生まれ変わり」を信じれば、どんな厳しい状況になっても希望を持ち続けることができる。世界に冠たる超高齢社会日本は、「誰もが希望を持ちながら死んでいける社会」を構築することで、「安楽死」問題を乗り越えていくべきではないだろうか。

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2020年7月27日 Business Journalに掲載

2020年8月3日掲載