大阪大チーム、コロナの画期的“DNAワクチン”開発…米国勢との連携で中国に対抗へ

藤 和彦
上席研究員

「新型コロナウイルスの感染拡大を防ぎながら経済をどのように正常化させていくか」

世界が新しいステージに入りつつあるなか、ワクチン開発の重要性が高まっている。筆者は4月28日付本コラムで森下竜一大阪大学教授のワクチン開発への取り組みについて紹介したが、森下氏が5月に『新型コロナの正体 日本はワクチン戦争に勝てるか!?』(ビジネス社)を出版したことから、本稿ではその要点をかいつまんでお伝えするとともに、現在展開されているワクチンの開発競争が今後の世界の安全保障に与える影響について考えてみたい。

世界保健機関(WHO)によれば、現在世界で新型コロナに関して125のワクチン開発プロジェクトが進行中だが、多くの専門家は「新型コロナウイルスのワクチン開発は容易ではない」と指摘している。森下氏も「新型コロナウイルスはウイルス量が少ないから体内で抗体ができにくい。コロナウイルスのワクチンの卵での培養も成功していないことから、製造の見通しが立っていない」と同様の見解である。「国民の6割以上をウイルスに感染させて集団免疫状態にする」という戦略については、「新型コロナウイルスの抗体の持続期間が不明である。インフルエンザのワクチンは、3カ月ぐらいで抗体がなくなってしまう」と森下氏は否定的である。

やはりワクチンが必要ということだが、森下氏が開発しているのは従来の方法ではなく、DNA(遺伝子)ワクチンという新しい製造法である。DNAワクチンとは、ウイルス本体ではなくウイルスの遺伝子情報のみを入れる方法である。ウイルスの遺伝子情報を入れたプラスミドDNAと呼ばれるベクター(運び屋)を体内に入れると、ウイルスが細胞に侵入する際に用いるSタンパク質(表面のトゲの部分)が大量に発生する。体内にSタンパク質が大量に存在するようになれば、これに対して抗体ができるというわけである。

従来のワクチンの培養法で必要となる有精卵が国内でほとんど生産されていないのに対して、DNAワクチンの場合はプラスミドDNAを大腸菌の中に入れて大腸菌ごと増やせることから、大量生産が容易であり、製造コストも安い。DNAワクチンは保存しやすいとされている。

「ウイルスが変異してワクチンの効力がなくなるリスクはないか」との懸念について、森下氏は「現段階ではSタンパク質に関する変異が生じておらず、今後もその可能性は低い」とワクチンの有効性に太鼓判を押している。

日米ワクチン同盟の必要性

森下氏のチームは7月から治験を開始する予定であるが、遺伝子を用いたワクチン開発は米国勢が先行している。米バイオ医薬企業のモデルナは5月18日、「初期段階の治験で被験者45人全員に抗体ができた」と発表した。モデルナが採用しているのは、タンパク質をつくる信号であるメッセンジャーRNAを体内に入れて抗体をつくるという方式である。DNAとメッセンジャーRNA、どちらも遺伝子情報だけを使うことから、ウイルスが体内に混じるという危険性はない。違いは生産能力とコストだが、森下氏によればDNAワクチンに軍配が上がるという。

もう1社、米イノビオ社が採用しているのはDNAワクチンであるが、森下氏のチームのほうが長年の経験があり、一日の長がありそうだ。

しかし量産化という面では米国企業のほうが有利である。 森下氏によれば、米軍がバイオテロ対策のためにウイルスに関する研究開発予算を大量にベンチャー企業に提供しており、モデルナやイノビオも手厚い支援を受けている。森下氏の下にはオールジャパンともいえる関連企業が集結し、「年内に20万人分の投与を可能にする」との目標を掲げているが、これを米国側が量産化の面でバックアップすれば、その生産量は飛躍的に拡大するのではないだろうか。

遺伝子ワクチンとともに、現在開発が進められている方式にアデノウイルスという風邪のウイルスを弱毒化して使用するアデノウイルスワクチンがある。これは抗体をつくる点では優れているが、アデノウイルスによる毒性がかなり高いという問題点がある。副作用として挙げられるのは発熱、倦怠感、肝機能障害などである。

さらに問題なのは、体内でアデノウイルスに対する抗体もできてしまうことから、複数回投与した場合、効果が出なくなってしまうことがわかっている。これに対し遺伝子ワクチンは複数回の投与が可能である。

アデノウイルスワクチンを開発しているのは、米ジョンソン・エンド・ジョンソン、英オックスフォード大学、北京生物製品研究所などだが、中国国務院は5月31日、「ワクチンの臨床試験の第2段階が完了し、年末にも市場に投入される可能性がある」と発表するなど中国勢が最も先行している可能性が高い。

毒性が高く複数回の投与ができないアデノウイルスワクチンの開発に中国勢が躍起になっていることについて、森下氏は「治験に人民解放軍が参加していることから、中国のワクチン開発は軍事用ではないか」とした上で、「ワクチン外交で周辺国を意のままに操り、ワクチンを投与された人民解放軍がアジア地域で傍若無人に振る舞うようになるのではないか」と危惧している。

このような状況を決して許してはならない。強固な同盟関係にある日米両国は、「遺伝子ワクチン同盟」を形成して世界に安全なワクチンを迅速かつ大量に供給することを通じて、アジアをはじめとする世界の安全保障に貢献すべきである。

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2020年6月2日 Business Journalに掲載

2020年6月11日掲載