ドイツは中小企業に65万円援助、米国は医療に1千億ドル投入…緊急事態宣言以前にすべき政策

藤 和彦
上席研究員

日本でも東京や大阪を中心に新型コロナウイルス感染者の増加傾向が鮮明になっていることから、新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)に基づく緊急事態宣言の発令が取り沙汰されるようになっている。政府の専門家会議の尾身茂副座長は1日、「爆発的感染が起こる前に医療体制が機能不全に陥ることが予想される」と警告を発した。

医療崩壊を恐れる日本医師会も、3月下旬から特措法に基づく緊急事態宣言を求めている。緊急事態宣言が発令されれば、(1)住民に対して必要な場合を除き外出しない、(2)施設管理者に対して大規模イベントなどを停止することなどを要請できることから、感染者の拡大が抑制できると考えているのだろう。だが、要請に従わない場合、諸外国のように罰則が科されるわけではなく、実効性が乏しいといわざるを得ない。安倍晋三首相も1日の参議院決算委員会でそのことを認めている。

むしろ副作用のほうが大きいのではないだろうか。地域や期間を限定して発令したとしても、国民がパニックに陥り日本全体が大混乱になれば、かえって感染拡大が助長される可能性があるからである。仮に都市封鎖(ロックダウン)がなされれば、経済に与える悪影響も甚大である。第一生命経済研究所は3月30日、「東京都を1カ月封鎖すれば、日本のGDPの1%に相当する5.1兆円の損失が発生する」との試算結果を公表している。

新型コロナウイルスについて、政府の専門家チームはクラスター(時間的及び地理的にみて、特定の疾患の発生率が非常に高い集団)に注目して国内での感染拡大を抑止してきたが、自粛要請についても同様のアプローチが有効ではないだろうか。

「休業補償付き歓楽街封じ込め」策

専門家チームは3月末から「夜間を中心に営業する接客業や飲食店等で感染が広がっている可能性が高い」と懸念視していることから、いわゆる歓楽街をターゲットにした封じ込め策が効果的だと思う。その際肝心なのは「自粛したくても店を開かざるを得ない」経営者に対して休業補償(テナント料などの固定費に対する補助など)を行うことである。

参考になるのは、ドイツの新型コロナウイルスに対する緊急経済対策である。3月27日に成立した経済対策の規模は7500億ユーロ(約90兆円)、注目すべきはそのうち中小企業への支援金が総額1560億ユーロ(約19兆円)も計上されていることである。支援策の実施の速さにも瞠目すべきものがある。同30日に支援金の申請手続きが開始され、中小企業は面倒な審査なしに、まずは1回限りの5000ユーロ(約65万円)の援助が受けられる。返済なしというから、経営に窮する中小企業にとってつなぎの資金として大変ありがたいことだろう。

日本でも緊急経済対策が議論されているが、休業補償制度を導入しようとする動きはほとんど見られない。新型コロナウイルスの感染が抑制された後の消費喚起策として現金給付や商品券の配布などが検討されているが、国民に自粛要請を強いながら、将来の消費喚起に躍起になっている姿勢に違和感を抱かざるを得ない。「明日の100より今日の50」ではないが、今必要なのは収入減で生活に不安を抱えている人たちへの補償である。

小池百合子東京都知事は休業補償を含め霞ヶ関からの多額の財政支援を期待しているようだが、このような緊急事態においては、東京都が自ら率先して「休業補償付き歓楽街封じ込め」策を実施したらどうだろうか。このパッケージは強制力のない緊急事態宣言発令よりも実効性が高く、東京都が小さくても「始めの一歩」を踏み出せば、自民党内の空気を一変させることができるだろう。

重要なのは実効性が高い政策の迅速な実施

医療崩壊を防ぐためには、国民の外出自粛に加えて、今後入院が必要とされる患者全員を収容できる病床の確保も喫緊の課題である。日本全体で約4800の病床が用意されているが、ピーク時に発生する患者数は最悪の場合、20万人を超えるとの試算がある。

米国や中国では、軍が公園や空き地などに野戦病院を短期間で設置しているが、日本がまず実施すべきは限られた病床の有効活用である。指定感染症とされた新型コロナウイルス感染者は症状が出ていなくても強制入院を余儀なくされ、その後体調が回復してもPCR検査で2度陰性とならない限り退院できない。このことから入院期間が不必要に長期化するという問題が生じている。政府は制度の運用を弾力化するとともに、(1)無症状感染者や(2)体調が回復したものの経過観察が必要な者を隔離できる施設を確保することが不可欠である。

大阪府などはそのための隔離施設として民間のホテルなどを活用したいとしており、その円滑かつ迅速な実施のために、「臨時の医療施設を開設するため、土地や建物を強制使用することが可能となる(特措法第49条)」緊急事態宣言の発令を求めている。特措法第49条に限定して緊急事態宣言を発令するのなら、前述したような悪影響は少ない。ただちに実施すべきだろう。

医療崩壊を防ぐための最後の方策は、長年の予算制約の影響より綻びが見え始めている医療現場への全面的な支援である。2兆ドル規模の緊急対策をまとめた米国では、そのうち1000億ドルが医療体制の整備に充当されるが、日本では「医療体制へ全面的なバックアップを行おう」という声が聞こえてこない。

米国では国防生産法という戦時立法を適用して産業界全体に対して不足している人工呼吸器などの増産を命じているが、日本でも人工呼吸器をはじめ、防護服や薬品、その他の医療用製品を大量に生産する体制を早急に構築し、増産分すべてを政府が買い上げ、医療現場に支給できるような財政支援を行うべきである。

ハードの整備に加え、マンパワーの拡充も欠かせない。英国政府は、退職した医療従事者に現場復帰を促すとともに、獣医師を医療現場に投入し、さらに失業状態にある航空会社の客室乗務員(約1.3万人)が医療支援を行う整備しつつあり、日本も見習うべきだろう。

このように、日本の医療現場の崩壊を防ぐためには、緊急事態宣言発令の是非ではなく、実効性が高い施策を迅速に実施できるかどうかにかかっているのではないだろうか。

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2020年4月2日 Business Journalに掲載

2020年4月9日掲載