サウジ国営石油施設、ドローン攻撃で甚大な被害…原油輸入依存する日本、石油危機も

藤 和彦
上席研究員

原油価格が急伸し、過去最大の値上がりとなっている。

サウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコ本社(同国東部のダーラン)近辺の石油施設(アブカイクとクライス)が9月14日、イエメン反政府武装組織フーシ派による大規模なドローン攻撃を受け、甚大な被害が発生したからだ。

失われた原油生産能力は日量570万バレル、世界の原油供給量の6%弱に相当する。ドローン攻撃で停止された原油生産が50%回復するまで、数週間または数カ月かかる見通しである(9月17日付ブルームバーグ)。

筆者は今年7月から、フーシ派のドローン攻撃によってサウジアラビアの原油生産に影響が出るリスクに警鐘を鳴らしていた(7月19日付JBpress)が、こんなにも早く、しかも大規模な供給途絶事案が発生するとは予想していなかった。フーシ派は8月17日にサウジアラビア東部のシャイバー油田施設に対するドローン攻撃を実施していた(供給途絶は生じなかった)が、その後、周到な偵察を行った上で、今回の「攻撃成功」を勝ち取ったようである。

米国の武器も無力

米国政府から「今回の攻撃は、イランが支援するイラクの武装組織が実施した」との憶測が流れているが、筆者はフーシ派による犯行であると考えている。

その根拠は、フーシ派の軍事力が飛躍的に向上しているからである。フーシ派が使っているドローンは、イラン製の軍事用ドローン「アバビール(コーランに出てくる神が遣わした鳥)」である。航続距離は1200kmであり、アバビールの改良型は爆弾の搭載が可能である。低空で飛行するためレーダーで捉えにくく、ミサイルで撃墜するのは困難である。アバビールの最大の利点は1機当たり200ドルと安価なことである。部品はすべて市場で調達することが可能であり、アマチュアでも製造できるという(8月22日放送のNHK BS1『国際報道2019』)。

イランは中東各地の武装勢力にドローンを提供することで、実戦での結果をフィードバックさせ、ドローン技術に磨きをかけているとされている。ドローン攻撃の直後、米トランプ大統領はサウジアラビアのムハンマド皇太子と電話会談し、サウジアラビアの自衛を支援する考えを伝えた。だが今回の攻撃により、これまで米国から提供された武器で広範囲な活動を続けてきたサウジアラビア空軍の活動が、フーシ派のドローン攻撃にまったく無力であったことが明らかになってしまったといえるのではないか。

フーシ派によるサウジアラビアへのドローン攻撃は過去100回近く実施されたとされているが、今後収まるどころか、増えるばかりだろう。サウジアラビアがイエメンへの軍事介入を止めない限り、サウジアラビアの安全保障環境は悪化するばかりだが、なんら成果を挙げぬまま撤退するようなことになれば、4年半前に介入を決断したムハンマド皇太子の面子は丸つぶれである。

高まる地政学リスク

今回のドローン攻撃でサウジアラビアが失ったものは、原油生産ばかりではない。米CNBCによれば、サウジアラムコが被った被害額は310億ドルに上る。

重要なのはフーシ派がドローン攻撃を行った地域が「サウジアラビアの石油産業の中心地」(アブドラアジズ新エネルギー相)だったことである。ブルームバーグは「今回の攻撃はサウジアラビアの心臓発作を誘った」と報じているが、サウジアラビアへの心臓部への攻撃が続けば、サウジアラビアは突然死しかねない。

さらに「ビジョン2030」を掲げ脱石油依存型経済に邁進するムハンマド皇太子の夢が水泡に帰するリスクも生じている。

原油価格の下支えに向けたOPECプラスの協調減産のため、日量1200万バレルの生産能力を有しているサウジアラビアの実際の原油生産量は、日量1000万バレル弱に減少しているが、原油価格は一向に上がる気配を示さないことから、原油収入が大幅に落ち込み、サウジアラビアは今年再びマイナス成長となるリスクが高まっている(9月5日付ロイター)。

国家財政の「穴埋め」を行い、なんとしてでも経済成長への道筋に戻さなければならないムハンマド皇太子が当てにしていたのが、サウジアラムコの新規株式公開(IPO)の早期実施だった。ムハンマド皇太子は8日、IPOに消極的だったとされるファリハ氏の首をすげ替える荒療治を行ったばかりだったが、今回のドローン攻撃でIPOは振り出しに戻ってしまうだろう。

サウジアラビアの安全保障環境が改善されない限り、サウジアラムコのIPOばかりか、サウジアラビアへの外国投資も一層低調になるのは火を見るより明らかである。

ムハンマド皇太子に対する王族の非難が高まり、「宮廷クーデター」が勃発するなど地政学リスクが一気に高まるというシナリオも現実味を帯びてきた。市場関係者の間では「サウジリスクが長期化すれば、原油価格は1バレル=100ドルに高騰する」との声が出ている(9月14日付OILPRICE)。

世界経済を支える米国だが、過去5回の景気後退のうち4回(1973年、1980年、1990年、2008年)で直前に原油価格が急騰していた。このことを鑑みれば、サウジリスクにより原油価格が高騰すれば、先行き不安が強まり世界経済への大きな打撃になることは間違いない。

原油価格高騰を防止するため、米国政府は「戦略石油備蓄(SPR)」の放出準備に入ったが、原油輸入の4割をサウジアラビアに依存する日本も「国家石油備蓄」の放出の準備をただちに開始すべきではないだろうか。

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2019年9月17日 Business Journalに掲載

2019年9月27日掲載

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